(原題:CAPITAL IN THE TWENTY-FIRST CENTURY )興味の尽きないドキュメンタリー映画だ。もっとも、本作の主張すべてに賛同出来るわけではない。不満な点もある。しかし、問題を要領よくまとめた手際の良さや、何より“経済学の文献の映画化”という新鮮なコンセプトは十分評価に値すると思う。
元ネタになっているのは、2013年に発表され世界的ベストセラーになったトマ・ピケティの同名経済学文献だ。我が国でも話題になった本だが、高額かつ700ページにも及ぶ大著ゆえ、私としても手を出せないでいた(笑)。今回、概略だけでも映像化してくれたのは有り難い(しかも、難解な数式などが出てこないのもポイントが高い)。
映画は産業革命後の18世紀末のヨーロッパの情勢から始まり、貴族階級の没落と絶対君主制の終焉、そして相次ぐ市民革命による混迷の19世紀を経て、20世紀初頭には富が資本家に集中することによって社会的格差が大きくなったことを説明する。支配者層は一般国民の不満の矛先を“対外的な敵”に向けさせ、世界大戦が勃発した。
二度目の大戦の反省から、各主要資本主義国の政策は中間層重視にシフトチェンジ。豊かな社会が到来したと思ったのも束の間、経済成長の停滞とスタグフレーションの発生により、新自由主義経済が台頭。構造改革の掛け声と共に、格差はまた拡大してきた。以上のような“筋書き”を本作は平易でストレスフリーな筆致により、スピーディに綴ってゆく。
監督のジャスティン・ペンバートンは、各時代を描いた既存の映画の一部を引用したり、適度なケレン味を加え、観る者を飽きさせないように腐心している。ジャン=ブノワ・ダンケルの音楽も良い。さらに興味深いのは、ピケティ以外にも10人以上の博識なコメンテーターが揃っていることだ。私はその中ではジョセフ・E・スティグリッツとフランシス・フクヤマぐらいしか知らないが、全員が的確なフォローで感心した。
なお、ピケティの言いたいことは、資本主義の正しいあり方を求めるための富の再分配だと思うが、私はそれだけでは不十分だと思う。基本的なマクロ経済政策である、金融政策と財政政策に対する言及が足りないのは不満だ(まあ、ピケティはそういうことは“周知の事実”であり省略しても構わないと思っているのかもしれないが)。
二度の大戦、特に2回目の前夜はマクロ経済政策が上手くいかず、結局“無限の財政出動”である戦争に頼らざるを得なかったというディレンマもあり、現時点での富の再分配(広義の財政政策)に繋げる具体的なスキームについても説明して欲しかったところだ。とはいえ、このような形式の映画は貴重だ。映画の原作は小説やコミックに限らない。あらゆる事物が映画の題材になり得るのである。今度はスティグリッツやポール・クルーグマンの諸作も映画化してほしいと思った。
元ネタになっているのは、2013年に発表され世界的ベストセラーになったトマ・ピケティの同名経済学文献だ。我が国でも話題になった本だが、高額かつ700ページにも及ぶ大著ゆえ、私としても手を出せないでいた(笑)。今回、概略だけでも映像化してくれたのは有り難い(しかも、難解な数式などが出てこないのもポイントが高い)。
映画は産業革命後の18世紀末のヨーロッパの情勢から始まり、貴族階級の没落と絶対君主制の終焉、そして相次ぐ市民革命による混迷の19世紀を経て、20世紀初頭には富が資本家に集中することによって社会的格差が大きくなったことを説明する。支配者層は一般国民の不満の矛先を“対外的な敵”に向けさせ、世界大戦が勃発した。
二度目の大戦の反省から、各主要資本主義国の政策は中間層重視にシフトチェンジ。豊かな社会が到来したと思ったのも束の間、経済成長の停滞とスタグフレーションの発生により、新自由主義経済が台頭。構造改革の掛け声と共に、格差はまた拡大してきた。以上のような“筋書き”を本作は平易でストレスフリーな筆致により、スピーディに綴ってゆく。
監督のジャスティン・ペンバートンは、各時代を描いた既存の映画の一部を引用したり、適度なケレン味を加え、観る者を飽きさせないように腐心している。ジャン=ブノワ・ダンケルの音楽も良い。さらに興味深いのは、ピケティ以外にも10人以上の博識なコメンテーターが揃っていることだ。私はその中ではジョセフ・E・スティグリッツとフランシス・フクヤマぐらいしか知らないが、全員が的確なフォローで感心した。
なお、ピケティの言いたいことは、資本主義の正しいあり方を求めるための富の再分配だと思うが、私はそれだけでは不十分だと思う。基本的なマクロ経済政策である、金融政策と財政政策に対する言及が足りないのは不満だ(まあ、ピケティはそういうことは“周知の事実”であり省略しても構わないと思っているのかもしれないが)。
二度の大戦、特に2回目の前夜はマクロ経済政策が上手くいかず、結局“無限の財政出動”である戦争に頼らざるを得なかったというディレンマもあり、現時点での富の再分配(広義の財政政策)に繋げる具体的なスキームについても説明して欲しかったところだ。とはいえ、このような形式の映画は貴重だ。映画の原作は小説やコミックに限らない。あらゆる事物が映画の題材になり得るのである。今度はスティグリッツやポール・クルーグマンの諸作も映画化してほしいと思った。