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「ザ・ランドロマット パナマ文書流出」


 (原題:THE LAUNDROMAT)2019年10月よりNetflixで配信。本国では賛否両論の評価を受けているらしいが、それも頷ける内容だ。奇を衒ったライト感覚の作劇は、重大なテーマをサラリと見せる効用はあるが、観る者によっては悪ふざけが過ぎるという印象を持つだろう。さらに、キャストが場違いなほど豪華なのも悩ましい。要するに、受け取り方が難しいシャシンである。

 湖の遊覧船が高波で転覆するという事故で、エレン・マーティンは夫を亡くす。犠牲者は彼を含めて21人にもなり、遺族は運営会社にその補償を要求するが、会社が入っていた保険は内実の無いペーパーカンパニーが担当していたことが判明。そのため、保険金はわずかしか払われなかった。自分で事の真相を探るエレンは、どうやらこの絡繰りを仕掛けていたのは、ユルゲン・モサックとラモン・フォンセカという2人の弁護士であるらしいことを突き止める。

 彼らは世界中に山のような数のペーパーカンパニーを作り、富裕層の“税金対策”として売り出していた。それらの所属先は、いわゆるタックスヘイブンである。たが、そんな詐欺に引っ掛かった者達は、次々と不幸を呼び込んでゆく。モサック・フォンセカ法律事務所によって作成された、租税回避行為に関する一連の機密資料“パナマ文書”を題材にしたジェイク・バーンステインのノンフィクションの映画化だ。

 エレンが真相解明の当事者になるのかと思ったら、狂言回しにもなっていない。序盤と、そして“オチらしきもの”が付くラストにしか出てこない。代わりに“主役”を務めるのはモサックとフォンセカで、最初から司会者気取りで観る者に向かって話しかける。あとは、彼らの詐欺の被害者たちの末路がオムニバス的に羅列される。

 小難しい金融用語などは出てこないし、寸劇を観るような雰囲気でスムーズに進行する。ただ、それらのエピソードは徹底的に辛口でブラック。監督はスティーヴン・ソダーバーグだが、いかにも彼らしい冷笑的なスタイルだ。しかしながら、この現在進行形のネタがこういう軽々しい筆致で綴られて良いのかという疑問は残る。

 かつてのソダーバーグもスノッブでシニカルなタッチで素材を料理してはいたが、シリアスな姿勢は崩さなかった。ところが本作では、最初から最後まで緩めの態度で臨んでいる。個人的にはこれもアリだとは思うが、広範囲な支持は得られないだろう。さらにメリル・ストリープをはじめゲイリー・オールドマン、アントニオ・バンデラス、ジェフリー・ライト、ジェームズ・クロムウェル、ロバート・パトリックとキャスティングだけは華やかだ。このあたりのチグハグさを受け入れられない観客が多いのも、納得するしかない。

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