(原題:TEL AVIV ON FIRE)各キャラクターは“立って”いるものの、コメディとしてはパワー不足で、あまり笑えない。しかしながら、題材の面白さでは十分に語る価値のある映画だ。シビアな状況に置かれながらも、決して悲観的にはならない作者のポジティヴな姿勢も評価出来ると思う。
エルサレム在住のパレスチナ人青年サラームは、1967年の第3次中東戦争前夜を描く人気メロドラマ「テルアビブ・オン・ファイア」の制作現場で働いている。とはいえ、彼の仕事は言語指導で、メインのスタッフではない。この職にありつけたのも、プロデューサーである伯父のコネによる。サラームは撮影所に通うため毎日検問所を通るのだが、所長であるイスラエル軍司令官アッシにうっかり“自分はドラマの脚本家だ”と申告してしまう。
アッシとその妻は「テルアビブ・オン・ファイア」の大ファンで、自分のアイデアをサラームに押し付けてドラマを改変するように迫る。するとアッシのアイデアが認められ、サラームは本当にシナリオを担当することになる。だが、最終回の展開に関してアッシとプロデューサーの考えは大きく異なり、板挟みになったサラームは必死に打開策を考える。
上映時間は97分と短めだが、サメホ・ゾアビーの演出が冗長で画面が弾んでこない。窮地に陥ったサラームの行動を、もっとスラップスティックに盛り上げて欲しかった。しかし、この設定は面白い。
イスラエル人とパレスチナ人が同じTVドラマを見て楽しんでいること自体が興味深いが、その番組が中東戦争をネタにしているというのだから驚く。どんな結末を用意しても、それぞれの陣営が真に満足することは無いと思われるが、映画は“禁じ手”のような思い切った手段で乗り切ってしまう。これはけっこう痛快だ。そして作者の、この情勢が必ず好転するものと信じている楽天性が感じられ、鑑賞後の印象は決して悪くない。
サラーム役のカイス・ネシフは煮え切らない男をうまく演じており、アッシに扮するヤニブ・ビトンや女優役のルブナ・アザバル、サラームのガールフレンドを演じるマイサ・アブ・エルハーディ等、馴染みは無いが皆良い働きをしている。また、劇中のメロドラマがいかにも下世話で、画面もそれに応じてチープになっているのも面白い。