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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「MEMORIES」

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 95年作品。大友克洋が「AKIRA」(88年)に続いて取り組んだ劇場用アニメーション。とはいっても「迷宮物語」(87年)のようなオムニバスもので、原作は担当しているものの、演出は一話だけである。第一話「彼女の想いで・・・」は、死んだソプラノ歌手の妄念がコンピュータにより宇宙空間に仮想スペースを作りだし、近くを通りかかった輸送船の乗組員を引き込もうとする。監督は森本晃司。

 死者の怨念が特定の空間を歪める、という設定は“幽霊屋敷もの”の典型で、それをSF仕立てにするのも誰でも考えられそうなものだが、この作品はその映像の喚起力により観る者を圧倒させる。ゴシック的な仮想空間のアーキテクチャーとハイテク、死んだ彼女の想念の映像化と天使の像が襲いかかるというアナーキーな仕掛け、それと何よりジェットコースター的展開と精緻なアニメーション技術は、ハリウッドでも不可能な映像のアドベンチャーだと思う。無常的なラストも捨て難い。



 第二話「最臭兵器」は、山梨県の山麓にある製薬会社の社員が、極秘開発中の新薬を飲んだことから周囲に“殺人臭気”を放つ人間兵器に変身。東京に向かおうとする彼を阻止すべく自衛隊との激闘が始まる。監督は岡村天斎。3話中最もブラック・ユーモアに満ちた作品で、基本的にワン・アイデアのエピソードながら、畳み掛けるような展開とノンストップ・アクションで見応えたっぷり。実戦に慣れていない自衛隊のナサケなさや、アメリカ軍が介入してくるあたり、どこぞの怪獣映画を皮肉っているのも笑わせる。コンピュータを作画に使っていない製作ながら、技術的には実にハイレベルだ。

 第三話「大砲の街」は、架空の国の架空の時代の街が舞台。建物すべてに大砲が備えられ、“外敵”に対峙している。映画はこの街の平凡な一日を淡々と綴るのみ。大友克洋自身が演出を担当。遠近感のない構図と欝蒼とした色調。手書きの版画を思わせるアニメらしくない絵柄(ソ連のアニメによくありそう)。何より要塞のような、くすんだ街の風景は見事にオリジナリティを獲得している。そしてこのエピソードを“ワンカット”で撮るという実験的な試みを行なっているのも興味深い。大砲で武装し、毎日何発か発射して戦果が報道されるものの、市民の誰も“外敵”が何なのか知らない。発射することが目的と化している暗鬱な全体主義の社会を巧妙な映像で描く野心的な作品。

 三話を通して、尖った大友の作風は一貫しているし、技術的には言うことがない。少なくとも、2013年に製作された同じくオムニバス形式の「SHORT PEACE」よりも楽しめる内容だ。大友は久しく映画を撮っていないが、新作を期待したい。

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