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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「マリッジ・ストーリー」

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 (原題:MARRIAGE STORY)これは“21世紀の「クレイマー、クレイマー」か。あるいは米国版の「ある結婚の風景」か”と思わせるほど、ヴォルテージが高い映画である。題名通り、題材は主人公2人の結婚生活の顛末だが、曖昧に終わらせず両者の確執を徹底的に描く。しかも、恋愛感情の推移や子供の有無、または社会的要因といった従来からの離婚劇のポイントをあえて重視せず、それどころか“結婚とは何か”という根源的な命題を追求する。

 ハリウッドで活動していた女優のニコールは、舞台監督兼脚本家のチャーリーとの結婚を機に、住まいをニューヨークに移す。ところが、一人息子のヘンリーが8歳になった頃からすれ違いにより結婚生活が上手くいかなくなってしまう。そこで円満に協議離婚をしようとするが、それまで互いに我慢して言えなかった相手への不満が爆発。ついにはそれぞれ弁護士を雇って家庭裁判所で争うことになる。やり手の弁護人を立てて周到に裁判の準備を進めるニコールに対し、対処が後手に回ったチャーリーは苦戦。果たして結末は・・・・という話だ。

 つまりは、結婚生活を成り立たせているものは、子供の存在ではないのだ。そして社会的慣習やしきたり(または世間体)とも違う。それどころか、両者の愛情が持続しているか否かでもない。では一体何かというと、互いの立場・価値観を認め合うことなのだ。

 当初、2人は夫婦の確執を解決するために弁護士に支援を仰ぐ。しかし、弁護人は法律の範囲内でしか仕事が出来ない。そこでニコールとチャーリーは改めて対峙し、互いに心の中をさらけ出す。かなりの時間を割いて描かれるこのシークエンスは、何とか自身のアイデンティティを理解させようと身悶えする生身の人間性が横溢し、観る者を圧倒させる。そして2人は“制度としての結婚”を超越して“本物の結婚”という次元へと到達するのだ。

 このくだりは説得力があり、大いに共感してしまう。ノア・バームバックの演出は以前観た「ヤング・アダルト・ニューヨーク」(2014年)より大幅に進歩しており、全編息つく暇も無い濃密なドラマを展開させている。また、ロスアンジェルスとニューヨークという主人公2人のホームグラウンドにそれぞれのキャラクターを反映させている点も面白い。

 主役のスカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバーの演技は素晴らしく、特にヨハンソンはどこにこんな実力を秘めていたのかと驚くばかりだ。ローラ・ダーンにアラン・アルダ、レイ・リオッタと、脇の面子も充実している。また、ランディ・ニューマンの音楽は短い時間に効果的に流れていて感心した。本作はNetflix製作だが、映画界におけるこのメディアの注目度は高くなっていくことだろう。

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