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「ブルックリン最終出口」

 (原題:LAST EXIT TO BROOKLYN )89年作品。感情移入出来る登場人物が一人もおらず、どいつもこいつもクズばかりだ。しかし、それでも映画は面白くなることもある。作者の覚悟と開き直りが、徹底した悪の跳梁跋扈を一種のスペクタクルとして見せている。また、殺伐とした時代背景の描出も見逃せない。

 1952年、ブルックリン85番街に住むハリー・ブラックは、鉄鋼所の労働組合の現場責任者として周囲の若者たちのボス的存在であることを自称していた。折しも職場はストに突入し、無制限に経費を使えることを自慢していたハリーだが、実は妻子との仲は冷え切っていた。そんな彼が興味を持ったのが、ゲイのジョージェットが主催したパーティーだった。そこで彼はゲイのレジーナに惹かれてゆく。やがて警官隊が組合側のピケに放水するなど、事態は紛糾。そんな中、ハリーは経費の使い込みがバレてクビになってしまう。そして失意の彼をさらなる不幸が襲うのだった。

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 原作者のヒューバート・セルビー・ジュニアはアメリカ人だが、監督は「クリスチーネ・F」(80年)のドイツ人ウリ・エデルである。一見ミスマッチに思えるが、セルビーは十代の頃に西ドイツに滞在し、そこで病気が元で随分と荒れた生活を送っていたらしい。故郷のブルックリンに帰ったセルビーだったが、ホームレスに身を落とす等、相変わらず後ろ向きの日々を送っていたとか。その時の体験をを元に書いたのがこの小説である。だから、まったく両者に共通点が無いわけでもないようだ。

 ハリーはとことんイヤな野郎で、周りの若造共もロクなもんじゃない。そんな“人間、一皮剥けば全員が悪人”と言わんばかりのネガティヴなスタンスを、エデル監督はまったく隠そうとしない。その退廃ぶりは、まさに“ドイツ表現主義”から派生したとも思われる暗さと絶望に彩られている。

 しかしながら、アンディ・ウォーホールとケネス・アンガーに傾倒していたエデルは、そんな悪の巣窟を禍々しい“美”を伴って描出する。官能的な色彩と、クレーンを多用したケレン味たっぷりのカメラ移動が、その意図をバックアップしている。さらには、第二次大戦が終わったと思ったら、次は朝鮮戦争の泥沼が待っていたという、やりきれない時代の空気の扱い方も達者なものだ。

 主役のスティーヴン・ラングは怪演で、最後まで目が離せない。ジェニファー・ジェイソン・リーやバート・ヤングも持ち味を発揮している。そして音楽は何とダイアー・ストレイツのリーダーであったマーク・ノップラーで、効果的なスコアを提供している。

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