お手軽なB級ホラー映画であり、脚本も演出も大したことはない。しかしながら、映画ファンおよび映画関係者にとってはちょっと無視出来ないネタを取り上げており、その点は評価したい。ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭をはじめ多数の海外映画祭に正式出品されたのも、何となく分かるような気がする。
主人公の黒沢明は、その大それた名前とは裏腹に軽佻浮薄なラブコメ映画の製作現場で助監督としてこき使われる日々を送っている。しかし、彼は一途なホラー映画のファンでもあり、いつの日にか自分で監督しようと執筆中の脚本「ゴーストマスター」をいつも持ち歩いていた。山奥の廃校で「僕に今日、天使の君が舞い降りた」なるお子様向けラブコメ映画の撮影中、主演の勇也が製作側との“意見の相違”でドロップアウト。何とか仲を取りなそうとする黒沢だが、ひょんなことから自分には才能が無く、また映画を撮る機会など巡ってこないことを知る。
絶望と悔しさで泣きながら走り出して転倒した黒沢だが、その際の血のしずくが「ゴーストマスター」の脚本に垂れると、なぜか悪霊が召喚されてしまう。その魔物は勇也に取り憑き、映画のスタッフとキャストを次々と血祭りに上げるのであった。
どうして冴えない主人公の書いたシナリオに悪霊が降臨してくるのか分からないし、その後の展開も支離滅裂。似たような設定の中田秀夫監督「女優霊」(96年)のような、不条理な恐怖をジワジワと描き出そうという能動的な姿勢は見られず、他の映画からの(あまり効果的とは思えない)引用やら、笑えないギャグやらが目白押しで、観ていて脱力する。この手の映画に付き物の特殊効果はチープで、その見せ方にも工夫が足りない。
だが、ドラマの前提を通じて、あろうことか現在の日本映画の問題点を焙り出しているあたりはアッパレだと思う。黒沢たちが関わっているのは、毒にも薬にもならない“壁ドン映画”だ。ウェルメイドに仕上げる必要は微塵も無く、人気若手タレントを並べて観る者に“胸をキュンキュン(?)”させればヨシという、きわめていい加減な姿勢が槍玉に挙げられている。
しかも、予算は最低レベルでスタッフの疲弊度はブラック企業と同等。プロデューサーは黒沢みたいな(少なくとも)やる気はある者の努力を認めない。カメラマンに至っては、映画一筋に生きてきた自らのキャリアを後悔する有様だ。多少の誇張はあるとしても、これが映画製作の現状報告であることは間違いないだろう。冒頭に思いっ切り“壁ドン映画”をバカにするシークエンスを挿入させるなど、ヤケクソとも思える作者の開き直りが感じられる。
監督はこれが長編デビュー作になるヤング・ポールだが、第一作目で堂々と内部告発に走るとは、ある意味爽快だ。主演の三浦貴大は頑張っている。ヒロイン役の成海璃子も(久々にお目にかかるような気がするが)魅力的。川瀬陽太や柴本幸、手塚とおる、麿赤兒といった脇の面子も悪くない。面白いと思ったのは勇也に扮する板垣瑞生で、見かけは“ラブコメ要員”そのものながら、頑張ってイロモノに徹しているあたり、なかなか見どころがある。