深みは無いが、一応は退屈せずに最後まで観ていられる。空いた時間にフラリと劇場に入り、あまり気分を害さずにヒマを潰すにはもってこいのシャシンだろう。ただ、残酷な場面があるので幾分は観客を選ぶ。そのあたりは注意が必要だ。
どんな相手も6以内に殺すと言われる謎の殺し屋“ファブル(寓話)”は、裏社会ではその名が轟いていた。いつものように“仕事”を終えた彼に、ボスは無理矢理に“充電期間”を設定する。大阪に居を移し、1年間誰も殺さずに過ごせというのだ。もしもその間に誰かを殺せば、ボスは躊躇なく彼を殺すと釘を刺す。彼は佐藤アキラと名乗り、相棒のヨウコは妹という設定で、生まれて初めて一般人として暮らし始めるのだった。
しかし身を寄せたのが大阪の暴力団で、組の乗っ取りを図る勢力が暗躍し、親分の弟分で凶暴な性格の男が出所してきたり、さらにはアキラを付け狙う殺し屋コンビが来襲する等、剣呑な雰囲気が払拭されることは無い。ついには世話になった若い女ミサキが悪者どもに攫われてしまう。アキラはヨウコと協力し、誰も殺さずにミサキを救出するべく、敵のアジトに乗り込んでゆく。
アキラのキャラクターが面白い。極端な猫舌で、売れない関西芸人の持ちネタに大笑いする。そして今まで殺し屋稼業に専念してきたため、言動が一般社会の常識とは妙にズレている。時折柄にもないギャグを飛ばすが、全てハズしているのがおかしい。
もっとも、アキラの身元を引き受けるのがヤクザというのは無理筋で、しかも内部に火種を抱えている。こういう組織ではトラブルが起こって当然だ。(少なくとも表向きは)ちゃんとしたカタギの後見人を用意すべきであった。また、大阪に赴く際にボスに手渡されるインコが何のプロットにもなっていないのも不満だ。原作(南勝久によるコミック)ではそのあたりが説明されているのかもしれないが、私は読んでいないので分からない。
主演の岡田准一は健闘していて、アクションシーンも難なくこなす。ただし、出所したばかりの危険人物に扮した柳楽優弥の存在感には負けている。言い換えれば、柳楽が出ていなければ軽佻浮薄な出来に終わっていただろう。木村文乃に佐藤二朗、安田顕、佐藤浩市といった脇の面子も悪くない。
監督の江口カンの仕事ぶりには殊更才気走ったものは無いが、山本美月に福士蒼汰そして向井理という“大根”が3本も並んだにもかかわらず(笑)ここまで仕上げたのは評価して良いだろう。客の入りは良好なので、続編が作られる可能性は大である。