(原題:THE FAVOURITE )世評は高く、米アカデミー賞でも最多10ノミネートを獲得したようだが、個人的には全然楽しめなかった。理由は明らかで、各キャラクターおよび時代・舞台背景の掘り下げが浅いからだ。とにかくすべてが表面的で、結果として極めて退屈な2時間を過ごすことになった。
18世紀初頭、イングランドは新大陸の植民地をめぐってフランスと戦争状態にあった。時の女王アンは身体が弱い上に気まぐれな性格だった。女王をサポートしていたのは、幼なじみのサラ・ジェニングスである。サラは頼りにならない女王を巧みにコントロールし、実質的な権力を握っていた。そんなある日、没落した貴族の娘でサラの従妹にあたるアビゲイル・ヒルが宮廷を訪れる。
アビゲイルはサラの下で働くことになるが、実は相当な野心家で、再び貴族の地位に返り咲くためチャンスを窺っていた。その頃サラは議会対策で態度を硬化させるようになるが、女王はそんなサラを疎ましく感じるようになる。アビゲイルはこの期を逃さず女王に接近し、文字通りの“お気に入り”になろうとする。
当時の英国がスペイン継承戦争における北米での“局地戦”でフランスと対立していた事実には一応言及されているが、詳しくは述べられない。サラは対外強行派らしいのだが、どういう経緯でそんな政治的スタンスを取るようになったのか不明。そもそも、サラ自身のプロフィールが明確に提示されていないため、ここでは単に“女王を操って自己満足している勝ち気な女”としか映らない。
アビゲイルにしても、不遇な身分からのし上がろうとしているのは分かるが、結局は“上昇志向の強さ”以外にアピールするものは無く、キャラクターとしては弱い。アン女王の造型は史実に近いのかもしれないが、傍目には不格好で気難しいオバサンでしかなく、観ていて鬱陶しいだけ。
女王をめぐるサラとアビゲイルの“バトル”にしても、サラが一服盛られて落馬するくだりを除けば、面白いシーンは見当たらない。王宮を舞台にしてのスキャンダル劇ならば、ピーター・グリーナウェイやデレク・ジャーマンの作品ぐらいのハッタリを効かせても良かったが、ヨルゴス・ランティモスの演出は抑揚が無く冗長で、観ているこちらは眠気との戦いに終始した。
主演のオリヴィア・コールマンとレイチェル・ワイズ、エマ・ストーンは頑張ってはいたが、過去の彼女たちの仕事を大きく上回るものではない。映像も大したことがなく、良かったのはサンディ・パウエルによる衣装デザインとバックに流れるバロック音楽ぐらいだった。