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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「二十日鼠と人間」

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 (原題:OF MICE AND MEN )92年作品。実にウェルメイドで、鑑賞後の満足感は高い。有名な原作を前に、作り手たちは少しも動じていない。登場人物の内面は丹念に掬い上げられ、主題も明確に提示される。キャストの仕事ぶりも言うことなしだ。

 1930年代の大恐慌期、カリフォルニアの農村を渡り歩くジョージとレニーは、いつか2人で農場を経営することを夢見ている。ジョージは物知りで頭が切れるが、巨漢のレニーは知的障害があり、子供と同程度の知能しかない。彼らは新しい職場であるタイラー牧場にたどり着く。新しい仲間と仕事にも慣れ、ようやく夢の実現が見えてきたが、牧場主の息子カーリーは2人に敵意を持っていた。



 やがてレニーとカーリーの間には暴力沙汰のトラブルが発生。さらに暇を持て余したカーリーの妻がレニーにちょっかいを出したことから、取り返しの付かない悲劇が起きてしまう。文豪ジョン・スタインベックの同名小説の映画化である。

 ジョージは一人で人生を切り開ける才覚を持っているように見えるが、人間関係にコンプレックスを持ち、絶えず不安を抱えている。だからレニーという“見下せる存在”を伴っていないと生きていけない。このキャラクター設定は普遍性が高い。

 シッカリと自立して生きるのは誰しも目標とすることだと思うが、その実は依存出来る対象を(意識的にも無意識的にも)設定することによって脆弱な自我を取り繕うとするケースは多いのではないだろうか。そんなディレンマと向き合い、ついには身を切られるような“決断”を下すことにより、それまでの自分に決別するジョージの姿には、観ているこちらの心もヒリヒリする。

 ジョージ役で、本作の監督も引き受けたゲイリー・シニーズの手腕には確かなものがある。そしてレニーに扮したジョン・マルコヴィッチの神業的な演技には感服した。レイ・ウォルストンやケーシー・シマスコー、シェリリン・フェンといった脇のキャストも達者だ。

 果てしなく続く、黄金に輝く小麦畑。悲しいほど青いカリフォルニアの空。そんなスケールの大きい背景を映し込むことによって、苦悩に喘ぐ人間たちの儚さを対照的に際だたせる。この構図は見事だ。バックに流れるマーク・アイシャムの音楽もまた好印象である。

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