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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「サスペリア」

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 (原題:SUSPIRIA)結局、良かったのはトム・ヨークによる音楽だけだった。ただし、それはサントラ盤の出来映えに限っての話であり、映画音楽としては機能していない。ならば本作における音楽以外の要素はどうかといえば、すべてが落第点だ。まさに、本年度ワーストワンの有力候補と言えよう。

 1977年、ボストンに住んでいたスージー・バニヨンは、世界的な舞踊団“マルコス・ダンス・カンパニー”に入団するため、ベルリンにやって来る。元より高い技量を持ち合わせていた彼女は、すぐにカリスマ振付師マダム・ブランに認められ、次期公演での大きな役を得る。だが、この舞踊団の内部ではダンサーたちが次々と失踪するという不祥事が発生していた。一方、舞踊メンバーの一人を診察していた心理療法士のクレンペラー博士は、そのダンサーが行方不明になったことから、舞踊団に対して探りを入れる。



 77年製作のダリオ・アルジェント監督版はホラー映画の傑作として名高いが、個人的に面白かったのは開巻約20分のみだ。ただし、映像には同監督の独特の美意識が横溢し、ゴブリンの効果的な音楽も相まって、最後まで観る者を引っ張っていくパワーはあった(ストーリーも、一応辻褄は合っている)。しかし、このリメイク版には見事に何もない。

 舞踊団が実は魔女の巣窟だった・・・・というトンデモな設定には目を瞑るとしても、魔女には“派閥”みたいなものがあって一枚岩ではないとか、この舞踊団にスージーが招かれた理由とか、そもそも魔女たちは何を目的に今まで存在していたのかとかいった、物語の根幹に関わることが全然説明も暗示もされていない。クレンペラー博士の舞踊団との関わりや、当局側との関係性もハッキリとせず、ワケの分からないままエンドマークを迎える。

 もちろん、作り手に支離滅裂な話を無理矢理にデッチ上げて力技で観客を捻じ伏せる才覚があれば良いのかもしれないが、ルカ・グァダニーノ監督は前作「君の名前で僕を呼んで」(2017年)での煮え切らなさを見ても分かる通り、パワーも才気も無い。時折挿入される“実験映画的(?)な映像モチーフ”も、一般人が奇を衒ってみたというレベル。全盛時のアルジェントの“異常性”とは格が違う。

 かと思うと、当時ドイツで起こった一連のテロ事件や、クレンペラー博士の戦時中の苦労話などを加えて、社会性や歴史性などを付与して作劇に厚みを増そうとしているが、これがまあ取って付けたような印象しかない。それどころか無駄に上映時間を積み上げることになり、結果としてオリジナル版に比べて1時間近くも長くなってしまった。これではホラー仕立ての映画の体をなしていない。

 主演のダコタ・ジョンソンは可もなく不可も無し。少なくとも、母親のメラニー・グリフィスの若い頃のようなヤバさや、祖母のティッピ・ヘドレンのような品の良さは見当たらない。ティルダ・スウィントンの怪演も不発で、クロエ・グレース・モレッツの出番は少ないし(笑)、ルッツ・エバースドルフやミア・ゴスといった他のキャストもパッとしない。

 オリジナル版のヒロインを演じたジェシカ・ハーパーも出ているのだが、役柄自体が曖昧だ。映像面でも見るべきものはなく、ダンスシーンはパワフルだが下品だ。いずれにしろ再映画化の典型的な失敗例を見るようで、鑑賞後は居たたまれない気分になった。

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