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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「飛ぶ夢をしばらく見ない」

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 90年松竹作品。デイヴィッド・フィンチャー監督の「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」(2008年)に似た設定の映画だが、出来はこちらの方が幾分マシである。だが、決して優れた映画ではなく、どちらかというと凡作の部類だろう。いずれにしろ、この“若返りネタ”(?)というのは用意周到に段取りを整えないと、サマにならないということを実感した次第。

 中年サラリーマンの田浦修司は、心労で飛び降り自殺未遂を起こし、負傷したまま入院していた。ある日、都合により一夜だけ他の患者との同室を頼まれる。相手は女で、互いの顔が見えない2人は、言葉だけのセックスをしてしまう。翌朝、田浦は相手の顔を見るが、女が白髪の老人だったことにショックを受ける。



 退院後、田浦はまたその女・睦子と会う機会を得るが、何と彼女は40代にしか見えない。田浦は睦子とホテルで一夜を過ごすが、翌朝彼女は消えていた。3か月後、田浦の前に現れた睦子は、20代になっていた。運命的なものを感じた田浦は、家庭を捨てて睦子と同棲生活に入る。だが、ある男の警察への密告により2人は引き離されることになる。山田太一による同名小説の映画化だ。

 睦子に扮した石田えりが公開当時に“ヒロインは、ただの病気だ”という意味のコメントを述べていたように記憶するが、主演女優自ら主人公の境遇を“病気”と片付けてしまうのは、本作のモチーフが“その程度”のことにしか扱われていないことを意味する。要するにこの映画、急速に若返ってしまう“病気”に冒された女と付き合う中年男の姿を通じて、身も蓋もないオッサンの願望を表現しているに過ぎないのだろう。

 事実、後半すでに十代に到達した睦子と向き合う田浦の姿には、明らかなロリコン臭が漂う(笑)。演じる細川俊之も好色演技(?)に専念しているようで、あまり広くアピールしてくるものが感じられない。もはやストーリーを進める余地は無いとばかりに打ち切られたラストには、タメ息しか出ない。

 須川栄三の演出は可もなく不可も無し。姫田真佐久による撮影、津島利章の音楽、共に大したことはない。加賀まりこや笹野高史、岡本麗といった他の面子も精彩を欠く。それでも、この映画が1時間40分ほどである点は、「ベンジャミン・バトン」よりも評価できる。何しろあの映画は本作より1時間も長かったのだ。

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