面白くなりそうな設定なのだが、筋書きはヘンに説教じみており、ディテールの詰め方も甘い。結果として、欲求不満を抱えたまま劇場を後にしなければならなかった。企画段階から見直すべき案件だったと思われる。
図書館の司書である大倉一男は、妻子に逃げられ、おまけに兄の連帯保証人になっていたため3千万円もの借金を背負っており、希望が持てず鬱屈した日々を過ごしている。そんな冴えない男が商店街の福引で宝くじ券を手に入れるが、何とそれが3億円の大当たり。多額の金を前にして喜びよりも不安の方が大きくなった一男は、起業して億万長者となった大学時代の親友である古河九十九にアドバイスをもらうため彼を訪ねる。さっそく催された打ち上げパーティーで酔いつぶれた一男が覚めると、九十九は3億円を持ってどこかに消えていた。川村元気の同名小説(私は未読)の映画化だ。
物語の発端だけを見ると、一男と九十九の追いかけっこを軸にしたコメディになると誰しも思うだろう。怪しさ満点の九十九を、マジメな一男が必死になって捜すというストーリーにすれば、いくらでもギャグを盛り付けられるし、作劇をスピーディーにすることも可能だ。ところが、この映画のテーマは“お金とは何か”ということらしいのだ。
一般ピープルにとって金は金でしかない。一男も同様だろう。しかも彼は金に困っている境遇だ。真っ先に借金を返して、それから残りをどのように使うか考えるのが普通だ。しかし彼は、借金返済の前に全額を銀行から下ろして九十九のオフィスに持ち込んでしまう。さらに、相手とは大学卒業から10年以上も会っていない。そういうのは“親友”とは言えないのだ。
そもそも、一男は金さえあれば妻子が戻ってくると信じ込んでいる、とても思慮があるとは思えない奴である。こんなキャラクターに感情移入は出来ない。映画の中盤に大々的に挿入されるのは、2人のチェイス場面ではなく、大学時代の思い出であるモロッコ旅行なのである。これがわざわざ当地にロケしたわりには、何も語っていないに等しい。
彼らは学生時代に落語研究会に属しており、話自体が九十九が得意としていた演目「芝浜」をベースにしているらしいが、古典落語を現代に持ってくる際の工夫が感じられない。単なるこじ付けのように思える。また九十九のビジネス・パートナーであった連中はコミカルに描かれるが、映画全体がお笑い方向に振られていないので、取って付けたような感じだ。
大友啓史の演出は凡庸で、ここ一番の力強さに欠ける。主演の佐藤健と高橋一生をはじめ、黒木華、池田エライザ、沢尻エリカ、北村一輝、藤原竜也など悪くない面子を揃えているにもかかわらず、上手く機能していない。観なくても構わない映画だ。