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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ダメージ」

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 (原題:DAMAGE)92年作品。ルイ・マル監督の作品をすべて観ているわけではないが、本作は出来の良い方だと思う。何より、愛欲に溺れている男と女が実は互いに全く違う認識を持っていること、そしてそれがもたらす取り返しの付かない災厄を容赦なく描くあたりに、作者の覚悟をひしひしと感じてしまう。

 英国下院議員のスティーヴン・フレミングは、政治家として着実にキャリアを積み上げていた。ある日、彼は息子のマーティンから恋人のフランス女性アンナを紹介される。ところがスティーヴンとアンナは互いに一目惚れし、マーティンには内緒で頻繁に会うようになる。



 スティーヴンの妻イングリットはアンナに不信の念を抱くが、アンナと離れられなくなったスティーヴンは、イングリットと別れることを決意する。だが、アンナはマーティンと婚約。それでもスティーヴンとアンナの仲は続く。アンナの母エリザベスは事情をすべて知っており、スティーヴンにアンナと手を切るように申し出るのだった。ジョゼフィン・ハートの同名小説の映画化である。

 アンナはスティーヴンにとって宿命の女(ファム・ファタール)であった。しかし、アンナにすれば彼との関係はアヴァンチュールの一つでしかない。マーティンとの安定した結婚生活と、スティーヴンとの不倫は、アンナの中では完全に“両立”するものだったのだ。しかし彼女のそんな性根は、十代の頃に受けた深刻な精神的ダメージに起因することが明らかになるに及び、何ともやるせない気分になってくる。

 また、絵に描いたような謹厳実直な人生を送ってきたスティーヴンと奔放なアンナの違いを通して、イギリスとフランスのそれぞれの“国民性”さえ浮き彫りにしようとするあたり、何とも底意地の悪い構図である(注:これはホメているのだ ^^;)。ラストの扱いなど、まさに身を切られるようだ。

 スティーヴンに扮するジェレミー・アイアンズはまさに絶品で、転落してゆく英国紳士をノーブルに演じきる。アンナ役のジュリエット・ビノシュも熱演なのだが、どうも彼女の当時のキャラクターとは合わなかったようで、アイアンズに比べれば見劣りするのは残念。

 だが、ミランダ・リチャードソンやルパート・グレイヴス、レスリー・キャロンといった脇のキャストが手堅く、あまり気にならない。ピーター・ビジウの撮影とズビグニエフ・プレイスネルの音楽も万全で、全体として観て損の無いレベルに達している。

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