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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「散り椿」

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 木村大作の前回の監督作「春を背負って」(2014年)よりは質の面でいくらかマシだが、やはり評価出来るようなレベルには達していない。改めて感じるのだが、この監督は登場人物の内面が描けない。前々作「劔岳 点の記」(2009年)はビジネスライクな(?)話だったのであまり気にならなかったが、本作のような各キャラクターの心理を掘り下げる必要のある題材には、この監督に適性があるとは思えない。

 江戸・享保年間(18世紀前半)、扇野藩で一刀流道場四天王の一人と謳われた瓜生新兵衛は、藩の不正を訴えたために追放されてしまう。それから8年、彼の妻の篠は、病の床で最期の願いを新兵衛に託す。それは、同じく四天王の一人で新兵衛の友人であった榊原采女を助けてほしいというものであった。



 故郷へ戻った新兵衛は早速采女に接触するが、側用人になっていた采女は、藩政をめぐって家老の石田玄蕃と対立状態にあった。そして、かつての藩の不正も揉み消した裏の勢力は、新兵衛をも亡きものにすべく暗躍する。葉室麟の同名小説の映画化だ。

 新兵衛の屈託は相当なもので、采女も難しい立場で悩んでいる。篠の弟である藤吾は新兵衛に対して複雑な感情を抱いており、篠の妹の里美は新兵衛を密かに慕っている。これら登場人物の心理は、映画として説得力があるように提示されてはいない。ただ、設定通りにキャラクターを配置しただけで、あとはキャストに丸投げだ。

 主演の岡田准一は別にしても、西島秀俊に黒木華、池松壮亮、麻生久美子、緒形直人、石橋蓮司、富司純子、奥田瑛二といった手練れの面々を起用しているだけあって、何とか映画は成立している。しかし、観る者の心を揺さぶるような深い感銘や衝撃は無い。どの描写も表面的だ。



 確かに名カメラマンである木村が演出しているだけあって映像は美しいが、これだけドラマが弱いと絵葉書的に見えてしまう。作劇自体も褒められたものではなく、四天王の関係性や、かつての藩のスキャンダルの描出は不十分。殺陣は頑張っているが、かなり変則的で違和感を覚える。

 肝心の剣戟シーンは段取りが悪くて感心しない(ヘタすれば簡単に主人公はやられている ^^;)。ラストの扱いも、決まっているようで全然決まっていない。あと気になったのは加古隆の音楽で、某映画のテーマにあまりにも似すぎている。台詞回しに難のある小泉堯史の脚本も含めて、製作側はもっとチェック体制を整えるべきであった。

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