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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「きみの鳥はうたえる」

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 本作で一番興味深いキャラクターは、柄本佑演じる“僕”の、バイト先での年上の同僚である森口だ。いわゆる“ケツの穴の小さい男”で、甲斐性も無いくせにヘンな正義感だけは旺盛。底の浅い“正論(らしきもの)”を堂々と披露するかと思えば、辛く当たられたことを根に持って狼藉に及ぶ。反面、依頼心が強くて上役には阿諛追従する。程度の差こそあれ、こういう下衆な性分を持ち合わせていると“自覚”している者(私も含む ^^;)にとっては、観ていて心に苦いものが込み上げてくる。演じる足立智充のパフォーマンスも万全だ。

 これに比べると、主人公3人の造型はあまり印象に残らない。ラストを除けば、捉えどころの無いフワフワとした関係性が漫然と提示されているだけだ。もっとも、これが当世風の若者気質なのかもしれないが、だとしてもあまり面白味のある展開とは思えない。

 函館市の書店でバイトとして働く“僕”は、小さなアパートで失業中の静雄と共同生活を送っている。ある日、ふとしたきっかけで“僕”は同僚の佐知子と懇ろになり、そのまま彼女は彼の部屋に居着いてしまう。3人は夏の間、夜ごと一緒に遊び回るが、静雄と佐知子が“僕”を残してキャンプに出掛けたことから、彼らの緩い関係は変化し始める。

 佐藤泰志の同名小説の映画化だが、過去の佐藤による小説の映画化作品である「海炭市叙景」「そこのみにて光輝く」「オーバー・フェンス」の3本に比べれば、本作は質的に落ちる。これは監督の力量によるものが大きいのかもしれない。

 三宅唱の演出は淡々としているがメリハリが無い。主人公3人の寄る辺ない日常が映し出されるだけで、展開のリズムが始終同じなので、観ていて眠気を覚えてしまった。

 それでも“僕”役の柄本佑と、静雄に扮する染谷将太は何とか持ち味を出していたと思う。残念なのは佐知子を演じる石橋静河で、有り体に言えば今のところ彼女は“大根”だ。母親(原田美枝子)の若い頃にはとても及ばない。だが、クラブやカラオケボックスの場面ではいくらか存在感が出てくる。このあたりは父親(石橋凌)の才能を受け継いでいるのかもしれない。

 足立以外の脇のキャストでは、渡辺真起子と萩原聖人が良かった。あと特筆したいのがHi’Specによる音楽で、洗練されたサウンドは耳に残る。

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