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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「太陽と月に背いて」

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 (原題:Total Eclipse )95年イギリス作品。19世紀のフランスを代表する天才詩人アルチュール・ランボーの新人時代を、その“恋人”のポール・ヴェルレーヌとの関係を通して描く。監督は「オリヴィエ・オリヴィエ」(92年)や「秘密の花園」(93年)などのポーランドの女流アニエシカ・ホラント。

 公開当時に私は本作をキャパ80席程度のミニシアターで観たのだが、朝一回目から超満員であった。それも9割以上が女性客で、年齢層も幅広い。もちろんこれはランボー役のレオナルド・ディカプリオが目当てで、しかも当時の若手アイドルスターが同性愛者を演じるという話題性の高さ所以である。ただし、客の多さと映画の質とは一致しないのも常識なのだ。



 感想はひとこと。“別にどうということのない凡庸な映画”であった。詩人に限らず名を成したアーティストってのは、程度の差こそあれアブノーマルな面があることが少なくないが、この映画は余人の考えの及ばぬ芸術家の生態を表面的になぞったに過ぎない。

 なぜ主人公たちは封建的な時代にあって同性愛に走ったのか。それが彼らの作り出す先鋭的な詩の世界とどう関わっているのか。そんな大事な部分は描かれず、切羽詰まった感情の流れも見られない(だいたい詩人の話なのに、肝心の詩そのものは紹介されていないのだから呆れる)。ここは彼らの詩の世界と映像をシンクロさせて畳み掛ける演出で見せきるべきだった。

 その頃は美少年タイプだったディカプリオがオジサンと懇ろになるシーンにキャーキャー言う女性観客のメンタリティは、男である私には到底理解できない(笑)。ヴェルレーヌ役のデイヴィッド・シューリスは熱演だが、彼の精神的バックグラウンドに映画が言及していないため上滑りするばかり。ヴェルレーヌの妻役のロマーヌ・ボーランジェなんか完全なミス・キャストで、これじゃ誰がやっても同じだ。

 そもそも、フランスが主な舞台なのに皆が英語しゃべっていること自体がヘンだ。まあ、製作元が英国なので仕方が無いとも言えるのだが、ただ主人公が文学者なだけに、これは致命的な欠点だと思う。ヨルゴス・アルヴァニティスのカメラによる映像と、ヤン・A・P・カチュマレクによる音楽とカメラワークは何とか及第点に達している。

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