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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ヤンクス」

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 (原題:YANKS )80年作品。肌触りの良い映画だ。戦時中を舞台にして、いわゆる反戦テイストも盛り込まれているのだが、描写自体は静かである。声高な展開を望む向きには受け容れられないだろうが、これはこれで評価出来よう。

 連合国側が攻勢を強めた第二次大戦末期、ヨーロッパ戦線にも多数の米軍兵士が送り込まれた。イギリス北部のヨークシャー州ステーリーブリッジの町にも、他の町同様に米軍が進駐していた。彼らはもちろん“ヨーロッパの解放”という名目でやって来ているのだが、一般の市民は彼らをヤンクス(アメ公)と呼び、決して諸手を挙げての歓迎はしていない。それでも、米兵と現地の女性との間の色恋沙汰は存在した。



 アリゾナ出身の炊事兵マットは、雑貨屋の娘ジーンと知り合い恋に落ちる。彼女も戦地に赴いている婚約者がいるのだが、それでも身近に好いてくれる男がいれば気にせずにはいられない。夫を戦場に送り出した主婦ヘレンは、妻子を残して赴任している米将校ジョンと懇ろになる。マットの同僚ダニーとバス車掌のモリーとの仲も、日増しに深くなっているようだ。しかしやがて戦争が終わると、彼らは辛い現実に直面し、米兵も町を去ることになる。後に「炎のランナー」(81年)のシナリオを手掛けるコリン・ウェランドの原案によるドラマだ。

 アメリカとイギリス、それぞれの国民性と、前線にいる者と銃後の守りにつく者達との格差の扱いが興味深い。ステーリーブリッジの住民が戦争で辛酸を嘗めるのは、決して米兵のせいではない。それでも親族を失った者は、米軍に八つ当たりする。その有様は観ていて辛い。

 戦闘シーンがあるわけではないが、戦争が一般国民の生活に入り込む不条理を過不足無く示しているのはポイントが高い。マットとジーンとの関係は良く描けており、特にラストの扱いは痛切だ。

 ジョン・シュレシンジャーの演出は丁寧で、余計なケレン味を抑えて淡々とストーリーを追っている。マット役のリチャード・ギアとジーンに扮するリサ・アイクホーンは、実に絵になる顔合わせだ。ヴァネッサ・レッドグレイヴやウィリアム・ディヴェイン、レイチェル・ロバーツといった面々もいい仕事をしている。そして特筆すべきはディック・ブッシュのカメラによる英国の風景。深い色合いで、とても美しい。味わいのある佳作である。

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