(原題:Hair)79年作品。68年からブロードウェイで上演された同名のミュージカルの映画化。ハッキリ言って、映画の内容よりも、あの時期に映画の企画として取り上げられたことが興味深い。
ベトナム戦争の最中である60年代後半、オクラホマの田舎町から徴兵を間近に控えた若者クロードがニューヨークに旅行にやってくる。戦争に行くことに何の疑問も持たなかった彼だが、そこで出会ったヒッピーの一団により大きなカルチャー・ショックを受ける。上流階級の娘とのアヴァンチュールも経験し、徐々に反戦思想に染まっていく彼だが、運命の悪戯はクロードとヒッピーのリーダーとを窮地に追いやっていく。
ブロードウェイでの上演は70年代初頭に終わっている。考えてみれば当たり前で、アメリカがベトナムから撤退しヒッピー・ムーヴメントも終焉を迎えてしまえば、取り敢えずはこのネタには“用は無い”のである。2009年からリヴァイヴァル上演が始まって高い評価を受けたが、これは紛糾する中東情勢とそれに関与するアメリカの姿勢にリンクしてのことであろう。
では、本作が作られた79年には何が起こっていたかというと、イラン革命である。しかし、この映画はそれより前に製作が決定しているので、直接は関係ないはずだ。要するに、波風の立っていない時期に作られたわけで、このあたりがどうもチグハグな印象を受ける。
監督はミロス・フォアマンだが、出世作「カッコーの巣の上で」や後の「アマデウス」に見られた才気はあまり感じられない。演出リズムは平板で、映像面にも特筆されるようなものはない。さすがに音楽は良いが、オリジナル通りであり映画の手柄ではない。クロード役のジョン・サヴェージをはじめトリート・ウィリアムズ、ビヴァリー・ダンジェロといったキャストの仕事にも突出したものはなく、全体としては凡作に終わっている。
そういえば70年代後半にロック・シーンを震撼させたセックス・ピストルズのジョニー・ロットンが“俺は髪の長い奴らが大嫌いだ。ヒッピーなんか虫酸が走るね”と言い放ったが、そういう“空気”の中での本作の製作は無謀であったのかもしれない。