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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「これからの人生」

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 (原題:La vie devant soi )77年作品。パリの下町のアパートで娼婦の子供たちを預かりながら暮らすユダヤ人老女とアラブ人の少年との交流を描くモーシェ・ミズラヒ監督作。アカデミー外国語映画賞やロサンゼルス映画批評家協会賞などを獲得している。

 やはり時代背景を抜きにしては評価出来ない作品だ。製作当時としては複数の人種が一つ屋根の下に暮らすというモチーフは有り得なかったはずで、その意味での目新しさはあったのだろう。さらに、ユダヤ人とアラブ人とが心を通わせるというストーリーも斬新だったはずだ。

 しかし、現時点ではさほど珍しくもない。平穏な生活の中にも戦争の傷跡が見え隠れするという設定も、それ単体ではインパクトを与えられるものでもない。しかし、主演女優シモーヌ・シニョレの力演を見ていると、そんなことはどうでも良くなってくる。

 彼女のキャリアからするとほとんど“遺作”の域に入る仕事だと思うが、本作でのパフォーマンスは素晴らしい。苦難の時代を生き抜いてきた重みと、それを声高に訴えるでもなく静かに人生の終わりを迎える諦念とが入り交じるヒロインの内面を、的確な演技で表現している。彼女は本作でセザール賞の主演女優賞を獲得しているが、それも頷けよう。

 また名カメラマンのネストール・アルメンドロスによる深みのある映像も要チェックだ。特に終盤の、暗い部屋にろうそくが灯るシーンの美しさは絶品である。

 原作はロマン・ガリー(エミール・アジャール名義)の同名小説だが、監督のモズラヒはエジプト出身であり、おそらくはユダヤ系とアラブ系との相克を体感しているはずで、そのあたりも本作に反映していたものと思われる。音楽はフィリップ・サルドで、これも良い。

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