(原題:SCENT OF A WOMAN)92年作品。大統領の側近まで務めた歴戦の英雄ながら、態度のデカさと口の悪さで人の敬意を得られず、家族からは無視され、孤独のまま退役を迎えた目の不自由な初老の元軍人フランクが、若い主人公チャーリーとの出会いにより、序々に自分を取り戻して行くまでを描くドラマ・・・・と書けば、しかるべきスタッフとキャストが手掛ければ、相当いい映画に仕上がる題材であると誰にも予想できる。
ところが、私を待っていたのは2時間40分ものお尻の痛くなるような上映時間だった。監督はマーティン・ブレスト。「ビバリーヒルズ・コップ」(84年)や「ミッドナイト・ラン」(88年)など、アクション・コメディを手掛けていたこの作家の、初のシリアス・ドラマである。ハッキリ言って、この監督はシリアスな場面の撮り方を知らないのではないかと思う。
会話のタイミングの悪さ、カメラ・アクションの凡庸さは目を覆うほどで、盛り上がってしかるべきのシーンが全然パッとしない。たとえば、自殺をしようとするフランクと、それを止めようとするチャーリーのやり取りの場面。全篇のハイライトであるはずなのだが、平板な画面の連続で、感動するどころかアクビさえ出てしまう。
それに対し、フランクが盲目の身でありながら、フェラーリで街中をぶっ飛ばすシーンは、待ってましたとばかりに画面が生き生きと弾んでくる。この落差。やはりこの監督は根っからのアクション派である。終盤の高校の懲罰委員会のシーンになってやっとドラマが動いたという感じだが、不要な部分を省略して1時間半ぐらいにカチッとまとめれば、もっと見応えのある作品に仕上がったかもしれない。
ただ、主演のアル・パチーノの仕事ぶりは万全だと思う。頑固さと孤独感が入り交じったフランクのキャラクターをうまく体現化している。若い女(ガブリエル・アンウォー)とタンゴを踊るシーンも素敵だし、何よりも本物の盲人としか見えない迫真の演技は、この俳優に初のアカデミー賞(遅すぎるとも言えるが)をもたらしたのも当然だ思わせる。チャーリー役のクリス・オドネルも良いパフォーマンスだ。
“セント・オブ・ウーマン”は直訳すると“女の香り”で、フランクが香水の匂いで女性の性格を言い当てるあたりをあらわしていると思うが、一見女性映画かと思われる原題をそのまま邦題に持ってくるのは少し疑問。配給会社は工夫してほしかった。