(原題:WONDER WHEEL)ウディ・アレン御大の名人芸を存分に堪能出来る一編だ。作品傾向としては「ブルージャスミン」(2013年)に通じるものがあるが、作者の素材への視点は、より一層辛辣で身につまされる。だが、それでいて映画としては“心理的スペクタクル”(?)を前面に押し出して、存分に楽しませてくれるのだから堪らない。
1950年代のニューヨークの近郊型リゾート地であるコニーアイランド。その遊園地内にあるレストランで働いているジニーは、再婚同士で一緒になった回転木馬係であるハンプティと、ジニーの連れ子である息子のリッチーと3人で暮らしている。生活は楽ではなく、住み家は観覧車の見える安い部屋だ。それでも彼女は昔は舞台女優であり、今でも一花咲かせたいと目論んでいる。
そんなジニーが知り合ったのが、海水浴場で監視員のアルバイトをしながら劇作家を目指している若い男ミッキーだ。ハンプティの凡庸さにウンザリしていた彼女は、たちまちミッキーと懇ろな仲になる。そんなある日、ギャングと駆け落ちして音信不通になっていたハンプティの娘キャロライナが転がり込んでくる。キャロライナはシンジケートの内実を警察に漏らしたため、組織に追われていた。ハンプティは何とか匿おうとするが、ヒットマン達はコニーアイランドにもやってくる。
ジニーの造型が出色だ。「ブルージャスミン」のヒロインは最初から常軌を逸していたが、本作の主人公は、不本意な人生を歩んできた結果、捨て鉢な行動を取るようになった。その過程が容赦なく描かれ、また現在の彼女の愚かな振る舞いに対して、映画は手加減しない。
どう見てもただの平凡な主婦なのだが、内心“ワタシの居場所はここではない。また絶対に盛り返せる”と確たる根拠も無く思い込んでいる。不釣り合いな若いミッキーを独り占め出来ると信じ、彼がキャロライナと仲良くなるのを嫉妬に身を焦がしながら見つめる。それがやがて取り返しの付かない事態を招いても、ジニーは反省しない。
ただ、突き放した扱いにも関わらず、中年女の悲哀が滲み出て観客への訴求力を失っていないことは、実に見事だ。こういう“自分の実力はこんなものではない”というアテにならない自信に縋り付いている図式は、程度の差こそあれ(私を含めて)誰の心の中にも存在しているのだと思う。その意味で、本当にシビアで観ていて身を切られるようだ。
アレンの演出は冴え渡り、屈託を抱えて小市民的な言動に終始する登場人物たちの醜さを、絶妙なモチーフを散りばめて鮮明に焙り出す。主演のケイト・ウィンスレットは素晴らしい。彼女のフィルモグラフィの中では指折りのパフォーマンスだ。ジャスティン・ティンバーレイクやジム・ベルーシ、ジュノー・テンプルなどの演技も申し分ない。
ヴィットリオ・ストラーロのカメラによる映像はとても美しい。ドラマの背景に表現主義的なオブジェのごとく大きな観覧車が鎮座するという構図も、見事と言うしかない。本年度のアメリカ映画の収穫である。