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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ウインズ」

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 (原題:WIND)92年作品。ついこの間まで、世界最大のヨットレース“アメリカズ・カップ”には防衛側が圧倒的に有利なルールが決められてあった。防衛側がヨットを日替りで何隻でも用意できるのに対し、挑戦者側はゲームに使う船は一隻に限定されており、それも自国からレース開催国までそのヨットで航海して来なければならなかったのだ。

 たとえばアメリカで開かれる大会にイギリスが挑戦者側として参加する場合、競技用のヨットで大西洋を横断し、そのままレースに出るという、たとえて言うなら、マラソン選手が開催都市まで走って来なければならないような理不尽なことが、100年以上も続いていたことになる。だからこそこのレースでアメリカが連戦連勝出来たとも言えるのだが、その栄光の歴史にピリオドを打ったのが1983年、アメリカはオーストラリアに破れてしまったのだ。次の1987年、初めて挑戦者側に立ったアメリカは大接戦の末、タイトルを奪還する。その顛末を描いたのがこの映画だ。

 とはいってもすべて事実に沿って描かれているわけではない。モシュー・モディン扮する主人公は映画のオリジナル・キャラクターだし、ジェニファー・グレイ演じる女性クルーも実際には存在しない。いわば事実にヒントを得た娯楽映画である。思わぬ敗戦から立ち直るまでのヨットマンたちの内面的葛藤は意外なほど描かれていない。最初からそんなことを狙った映画ではないからだ。

 監督はキャロル・バラード。前作「ネバー・クライ・ウルフ」(83年)を観ればわかるように、この人は筋金入りのナチュラリストである。彼が描きたいのは、ちっぽけな人間を圧倒させるような大自然の驚異である。セリフではなくて画面だけでメッセージを伝えられることを信じている映像派なのだ。

 この作品の場合、作者の狙いはタイトル通り“スクリーン上に風を巻き起こすこと”だと思う。そのこだわりは主人公たちが沙漠のまん中で船を作るシーンから始まり(船の製造スタッフが航空力学という風の専門家であることでもわかる)、クライマックスのレース場面で最高潮に達する。ヨットレースの勝敗の分かれ目は、いかに風をつかまえるかで決まる。二隻の船が実際に風を奪い合っていることをちゃんと映像化しているのがすごい。

 それにしてもレースシーンの何という素晴らしさだろう。海洋映画史上空前絶後の大スペクタクルと言ってしまおう。青い空と紺碧の海。全速力で疾走するヨット。二転三転するレース展開。躍動するクルーたちの肉体(まさに海の上の格闘技)。驚異的なカメラワーク。船酔いさえ起こしそうな臨場感にベイジル・ポールドゥーリスの音楽がかぶさり、最高のひとときを味わうことができる。

 製作担当のフランシス・フォード・コッポラと山本又一郎の手腕にも納得したが、それにしてもヨットレースというのはなんと金のかかるスポーツであることか。公開時にF1レース並の大事業と知って、びっくりしてしまった私である。

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