ほとんど期待せず、時間潰しのために観たようなものだが、意外と楽しめる。昨今氾濫する漫画が原作の日本映画を逐一カバーしているわけではないので軽はずみなことは言えないが、たぶんその中では出来としては上位にランクされると思う。とにかく、上手くまとめられていると感じた。
定年間近のサラリーマン犬屋敷壱郎は58歳だが、見た目は70歳ぐらいで、高校に通う娘の友人からは“おじいちゃん”と勘違いされるほどだ。職場ではうだつが上がらず、家庭でもマイホームを手に入れたにも関わらず居場所が無い。ある夜、犬の散歩中に謎の事故に巻き込まれた彼が目を覚ますと、外見は変わらないまま、身体の中身だけが機械になっていた。どうやら地球外知的生命体によって改造されたらしい。
高い破壊能力や治癒能力を手に入れたことに気付いた壱郎は、人助けによって自己実現を達成しようとする。一方、同じく謎の事故に遭遇して犬屋敷と同等の能力を身につけた高校生の獅子神皓は、その力を悪事に使う。やがて無差別テロに走るようになった獅子神を止めるべく、壱郎は敢然と立ち向かう。奥浩哉による同名コミックの映画化だ。
何より、主人公の造型が面白い。冴えない人間がひょんなことでヒーローになるという設定は珍しくはないが、犬屋敷は外観上のマイナス要因がとても大きい。どう見てもショボクレたジイさんであり、常にオドオドしていて覇気が無い。だが性根は優しくて、転がり込んできた特殊能力を悪用しないだけの社会的教養は持ち合わせている。
対して、獅子神の描き方は不十分だ。親友の直行の弁によれば“本当はいい奴”だったという。そんな彼が、いくら母子家庭で恵まれない境遇にいたとはいえ、凶行に走る過程が具体的に示されていない。警察やマスコミ、それに(直行以外の)獅子神のクラスメートの扱いも空っぽだ。
しかしながら、佐藤信介の演出はテンポがあり、観る側に深く考えるヒマを与えず小刻みに見せ場を繋ぐことによって、何とか2時間あまりを保たせている。クライマックスの新宿上空のバトルは、ハリウッド製活劇と比べればチープ感は否めないが、日本映画としては頑張っている。画面の暗さで誤魔化さず、堂々と白昼のシーンで勝負している点も評価して良い。
主役の木梨憲武は好演。老けメイクで雰囲気を出し、善良な主人公の内面も上手く表現している。獅子神に扮する佐藤健の演技は幾分ステレオタイプだが、ふてぶてしさは出ていた(30歳近いのに高校生役はキツいが ^^;)。
しかし、直行を演じる本郷奏多と壱郎の娘役の三吉彩花を除けば、あとのキャストの扱いは軽い。濱田マリに斉藤由貴、伊勢谷友介、二階堂ふみといった面子を揃えているのにもったいない話である。ラストの処理は続編を暗示させるが、次回はアベンジャーズの一員として活躍してほしい(←違うだろ ^^;)。