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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」

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 (原題:DARKEST HOUR)楽しめた。第一の勝因は、時間にしてチャーチルが首相に選出されてから1か月ほど、および案件をダンケルクにおける撤退作戦に絞ったことだ。これがもし長きにわたってチャーチルの政治活動を追うような展開にしたら、毀誉褒貶相半ばする人物だけに、まとまりのない出来になったはずである。

 第二の勝因は、身近にいた新人秘書の目を通して描いているパートが多いこと。これによって、主人公の私生活や個人的なポリシーなど、公にはならないエピソードを丹念に掬い上げることに成功した。

 1940年5月。ナチスドイツによる侵攻でフランスが陥落寸前になり、連合軍は北フランスの港町ダンケルクの浜辺に追い詰められていた。就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルは、ヒトラーとの和平交渉に応じるか、あるいは徹底抗戦に踏み切るか、決断を迫られることになる。前任者のチェンバレンと閣僚のハリファックス子爵はドイツとの交渉を主張し、チャーチルも一時はそれに同意しかけるが、世論の趨勢は別であった。チャーチルと軍当局、そして英国王ジョージ6世の思惑も加わり、事態は逼迫する。

 とにかく、チャーチルを演じるゲイリー・オールドマンのパフォーマンスが最高だ。辻一弘らによる超ハイ・クォリティな特殊メイクによりでっぷりと太ったチャーチルに変貌した外観もさることながら、頑固で傲慢な性格だが実は家族思いの人間味あふれる人物であることを見事に表現している。これは前述の通り新人秘書のエリザベスとの関係の中で示されることで、いかつい政治ドラマで押し切ってしまえば挿入するのが難しかったテイストであることは言うまでもない。ここは脚本の巧みさが光る。

 敵は目前に迫り、自軍はダンケルクに足止めされている。しかしここで“引いて”しまえば横暴なヒトラーを調子付かせるだけだ。いくら平和が尊いものであっても、すでに戦いの火蓋は切って落とされている。チャーチルが地下鉄で国民の声を聞くシークエンスは史実では無いだろうが、戦時内閣における腹の探り合いをやっている間に、国民は危機感を肌で感じていたというプロットは上手い。

 監督のジョー・ライトは映像派の面目躍如で、薄暗い中で異様なエネルギーが横溢する議会の場面や、ソフトなタッチで仕上げた王宮のシーン、市井の人々を捉えた即物的な映像処理など、手を変え品を変え構図を組み立ててくる。エリザベスに扮するリリー・ジェームズをはじめ、クリスティン・スコット・トーマス、ベン・メンデルソーン、スティーブン・ディレインといった脇の仕事ぶりも手堅い。ブリュノ・デルボネルのカメラによる陰影の深い画面や、ダリオ・マリアネッリの音楽も印象深い。

 今、英国は(EUとの確執などで)原題通りの“暗い時間”に直面するのかもしれないが、本作はその状況を反映しているといっても過言ではないだろう。見応えのある映画だ。

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