(原題:BRAIN ON FIRE )元より娯楽性を狙った映画ではなく、製作の目的が社会に対する“啓蒙”であると思われるため、盛り上がりには欠ける。だが題材自体は興味深く、主演女優は健闘しており、その意味では“観る価値はあまりない”とは言えない。
ニューヨークの新聞社に勤める新入社員のスザンナは、先輩マーゴの手助けもあって次々と重要な仕事を任せられ、プライベートではボーイフレンドでミュージシャンのスティーヴンとの仲も好調。充実した毎日を送っていた。だがある日、突如として物忘れがひどくなる。さらに職場では前後不覚に陥り、大事な取材では要領を得ない質問を繰り返し、相手を激怒させてしまう。やがて幻覚や幻聴も発生。ついには全身が痙攣する発作を起こして入院を余儀なくされる。
しかし、いくら検査しても異常は見つからず、医師団もお手上げ状態。会話すら出来なくなったスザンナは、精神病棟に入れられそうになる。それに対し両親やスティーヴンは、彼女が精神疾患であることを頑なに否定する。そんな中、医師の一人がかつての恩師に相談を持ちかけたところ、スザンナが罹患した病気の正体が明らかになる。当事者であるスザンナ・キャハランの著書を元に、女優シャーリーズ・セロンらが製作を担当。
何と言っても主役のクロエ・グレース・モレッツの奮闘が印象的だ。彼女はたぶん現在のアメリカの女優の中では1,2を争うほど可愛いルックスの持ち主だと思うが(笑)、そんなモレッツが表情を引きつらせて難病患者を熱演しているだけで、映画的興趣は高まってくる。
展開はヒロインの“病状”の定点観測であり、他のキャラクターの描写は通り一遍である。彼女の両親は離婚していて、今はそれぞれ別々のパートナーと暮らしているのだが、そのことがストーリーに大きく絡んでくること無い。単に“娘を心配する親”という設定が与えられているだけだ。上司の編集長をはじめとする職場の面々も深くは描かれないし、そもそも恋人のスティーヴンにしても優しいけど頼りない存在としか扱われていない。
だが、本作の作劇の主眼が抗NMDA受容体脳炎という珍しい病気の紹介であることを考えると、致し方ないとも言える。疾患概念が成立したのが2007年で、それからわずか10年ほどしか経っていない。それ以前は「エクソシスト」の主人公みたいに“悪魔憑き”と見なされるか、あるいは精神病の一症例として片付けられていたであろうことを考えると、このような“PRとしての映画”も存在価値はあると思う。
リチャード・アーミテージやキャリー=アン・モス、トーマス・マン、ジェニー・スレイトといった脇のキャストは、場をわきまえた的確な仕事をしている。