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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ビジランテ」

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 脚本はとても万全とは言えないが、題材の今日性、およびキャストの力演によって見応えのある映画に仕上がった。クリント・イーストウッド監督の「ミスティック・リバー」(2003年)との類似性を指摘する向きもあるかもしれないが、切迫度ではこちらが上だ。

 埼玉県の地方都市で、地元の顔役を父に持って育った3兄弟。長男の一郎は高校生の頃に家出し、今では次男の二郎は市会議員を務め、三男の三郎はデリヘルの雇われ店長をしている。兄弟の父親が世を去り、二郎は遺産となる広大な土地を相続して政治活動に利用しようとするが、失踪していた一郎が30年ぶりに突然帰郷。一郎は公正証書を持参しており、土地は自分のものであると主張する。

 荒んだ生活を送っていた一郎はヤク中で、しかも借金まみれ。闇金の取り立てのヤクザ連中が当地に乗り込んでくる。一方、市議会のドンの手下である暴力団が、一郎の相続辞退を取り付けるために三郎にプレッシャーをかける。監督の入江悠によるオリジナル脚本作品だ。

 公正証書は当事者同士の承認が必要なはずだが、ならば出奔した一郎はいつ父親に会ったのだろうか。そもそも、数々の違法行為を起こしている一郎に相続の資格があるとも思えない。冒頭、高校生だった一郎が“あるもの”を河原に埋めるのだが、終盤に三郎が何の目印もない河原から埋めた場所を突き止める不思議。しかも、その“あるもの”は大した物ではない。また、二郎の市会議での立ち位置も示されていない。3兄弟が巻き込まれていく暴力の応酬も段取りがイマイチだ。

 普通、これだけシナリオに“穴”があると評価はできないものだが、本作はそれを補って余りあるテーマが存在している。それは地方都市のダークサイドをモチーフにする、社会全体に広がる暗鬱な空気の醸成だ。それを代表するのが、題名にもある自警団(ビジランテ)の扱いである。

 二郎をはじめとする議員有志は、地域の治安を守るという名目で結成された自警団の世話役になっている。だが、結局は一部勢力のPRにしかならない組織であり、果ては外国人等に対する不合理な差別と弾圧の温床にもなりつつある。それでも、自警団の存在に異議を唱える者はいない。この、手段が目的化したような硬直した様態の描出により、世間一般を覆っている抑圧的な空気を表現しようとした作者の意図は認めて良いと思う。

 入江悠の演出は、舞台が自身の出身地の埼玉県深谷であり、前の「22年目の告白 私が殺人犯です」よりも各描写に力が入っている。主演の大森南朋と鈴木浩介、桐谷健太は好演だ。特に桐谷の成長ぶりには驚いた。菅田俊神や嶋田久作といった“濃い”面々は印象的で、“日活ロマンポルノ・リブート・プロジェクト”から流れてきた間宮夕貴と岡村いずみも健闘している。ただし、二郎の妻を演じる篠田麻里子は全然演技になっておらず、観ていて盛り下がる。やっぱりAKB一派は映画には出てほしくない(笑)。

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