興味深く観た。AV(アダルトビデオ)に関わるヒロインたちの真意など、男の私にはハッキリと分かるはずもない。だが、何らかの切迫した事情が“存在すること”だけは感じ取ることができた。無理な解釈を避けて現象面を中心に淡々と追う姿勢には、作者の冷静さが窺われる。
30歳代の主婦・美穂は、仕事一辺倒で家庭を顧みない夫に不満を募らせていた。また、何かと忙しい姉の代わりに、昏睡状態で余命幾ばくもない父親の世話にも追われていた。ある時彼女はAVに出ることを志願し、周囲を偽って泊りがけの撮影にも出かけるようになる。地方のしがらみの多い人間関係から逃れるように上京した彩乃は、AV女優として活動している。だが、その仕事ぶりが実家にも知られるようになり、母親と妹が田舎から出てくる。
祖母と暮らしている高校生のあやこの元に、母親が10数年ぶりに戻ってくる。母は以前AVに出ており、さらに妻子持ちの男と付き合った挙句に出来た娘があやこだった。無軌道な母親のことが学校にも知られ、あやこは周囲から孤立している。だが、絵を描いている時だけは自由になれる気がするのであった。AV女優兼作家の紗倉まなの同名小説(私は未読)の映画化だ。
美穂と彩乃、そしてあやこの母親に共通しているのは、底なしの孤独の中にいることであろう。しかし、それを癒す方法がどうしてAVなのか、その理由を映画は明示しない。ただ、そこには重大な何かがあることだけは認識できる。それがよく表現されているのが、出演者たちの接写である。不安に満ちた表情をドキュメンタリー・タッチで掬い取り、観る者を引き込んでいく。
監督の瀬々敬久はさすがピンク映画で実績を残しただけあって、絡みの場面では手慣れた仕事ぶりを見せる。しかも決して下品にならず、登場人物の葛藤をジリジリと焙り出しているようなタッチには感心した。
3人のヒロインのエピソードは独立しているように見えて、絶妙なところで一部クロスしている構成は見上げたものだ(原作の“手柄”かもしれないが、それでも感服した)。また、希望を持たせる幕切れも素晴らしい。
美穂役の森口彩乃、彩乃に扮する佐々木心音、あやこを演じる山田愛奈、いずれも好演。渡辺真起子や根岸季衣、高岡早紀、江口のりこ等のベテランがしっかりと脇を固める。ただ、欲を言えば彩乃の役は原作者の紗倉がやっても良かったのではないかと思う。紗倉の“出演作品”は見たことはないが、写真をチェックする限りでは佐々木よりも可愛い(笑)。