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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」

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 (原題:KUBO AND THE TWO STRINGS)題材の面白さと精緻な映像、そして深い物語性により、大きな存在感を獲得している。間違いなく近年の米国製アニメーションにおける収穫の一つだ。アカデミー賞の候補になるも受賞を逃したが、製作会社ライカのディズニーやドリームワークスとは違うテイストを印象付けた点でも評価すべきであろう。

 遠い昔の日本(おそらく、戦国時代)。隻眼の少年クボは、折り紙を三味線の音で自由に操るという不思議な力を持ち、その大道芸で生計を立てていた。彼の母親はクボが赤ん坊の頃にどこからか逃げてきたのだが、実は邪悪な月の帝ライデンの娘で、武士であるハンゾウと恋に落ちてクボが生まれたのであった。すでに父は亡く、母もやがて祖父が放った刺客(母の妹達)によって命を落としてしまう。クボは人間の言葉を話すニホンザルとクワガタムシを仲間に、祖父と叔母達に立ち向かう。



 ハリウッド名物の“えせ日本”は最小限度に抑えられている。おかしな点は散見されるのだが、それ以上に日本的な描写と、昔話やおとぎ話の趣向を上手く前面に出し、独自の美意識に彩られた物語世界を展開している。

 戦いの連続であるクボの旅は、実は家族再発見の行程である。面倒見の良いニホンザルに母性を、ひょうきんだが腕の立つクワガタムシに父性を投影し、さらに悪役であるはずの祖父との関係性も模索する。決して勧善懲悪の単純な図式ではないのだ。もちろん、少年の成長物語という鉄板の設定もカバーしている。



 これがデビューとなる監督のラヴィス・ナイトは、よほど日本文化に興味があるのだろう。水墨画や折り紙などの美術アイテム、そしてクボが住む村の情景と風習、特に精霊流しのシーンは心に染みた。バトルシーンの段取りもよく練られており、飽きさせない。本作はCGメインのアニメではなく、ストップモーション・アニメーションである。恐ろしく手間の掛かる方法だが、その苦労は報われている。各キャラクターが絵巻物のようなセットをバックに、滑らかに動き回る様子は感心するしかない。

 クボ役の十代の新鋭アート・パーキンソンの周りには、シャーリーズ・セロンにレイフ・ファインズ、ルーニー・マーラ、マシュー・マコノヒーといった豪華な声の出演陣が控えている。ダリオ・マリアネッリによる音楽は素晴らしいが、ラストに流れるレジーナ・スペクターによるビートルズの“ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス”のカバーには泣けてきた。

 エンド・クレジットのバックには劇中に登場するドクロの大型クリーチャーを操作するスタッフの姿が映し出されるが、これだけでも観る価値がある。ライカ・スタジオの次回作も期待したい。

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