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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ハイドリヒを撃て!『ナチの野獣』暗殺作戦」

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 (原題:ANTHROPOID)暗くて重い映画だが、明るい題材ではないので仕方がない。とはいえ、掘り下げが浅いので歴史物としての存在感が出せていない。史実を知らない観客にとっては“勉強”にはなるだろうが、それ以外の価値は見出しにくい映画だ。

 1942年。ナチスがヨーロッパ全域に勢力を拡大していく中、チェコスロバキアもドイツの支配するところとなり、ナチス第三の実力者と呼ばれたラインハルト・ハイドリヒが副総督として君臨していた。イギリス政府とチェコスロバキア亡命政府はハイドリヒ暗殺計画を企て、ヨゼフやヤンをはじめとする7人の工作員を秘密裏にチェコ領内に送り込む。彼らはプラハのレジスタンス組織やその家族と接触し、実行に向けて着々と準備を進める。過去に何回か映画化された“エンスラポイド作戦”を取り上げた作品で、監督は「ブロークン」(2008年)などのショーン・エリス。

 元々カメラマンだったエリス監督(撮影も担当)らしく、彩度を抑えてリアリティを持たせたドライな映像は印象的だが、各キャラクターは深くは描かれない。ヨゼフやヤンは単に直情径行型の若造として設定されており、せいぜい取って付けたような色恋沙汰が挿入されるだけで、個性があまり見えない。

 そもそも、彼らが祖国チェコに対してどういう想いを抱いていたのかハッキリしない。連合国側に存在を認めさせたいという動機だけならば、あまりにも無謀な作戦ではないか。確かにハイドリヒは冷酷で残忍だ。しかし、彼はナチスの上級幹部であっても、決してトップではない。ハイドリヒをチェコの地から駆逐しても、代わりの面子が後釜に座るだけだ。

 しかも、ナチスはこの暗殺計画の報復として、膨大な数のプラハ市民を虐殺している。果たして主人公達の行動およびチェコスロバキア亡命政府の判断が、損得勘定から考えて意義があったのかどうか(映画を観る限り)疑問だ。余談だが、ハイドリヒはレジスタンス勢力が主に中産階級のインテリ層から成ることを察知しており、彼らを締め上げる代わりに労働者階級に対して優遇策を取っていた。そのあたりのチェコ国民の実情をすくい取っていれば、もう少し作劇に奥行きが出てきただろう。

 終盤は教会に立て籠もったヨゼフ達と、彼らを捕らえようとする数百人のドイツ兵とのバトルが描かれる。このシーンは迫力があってなかなか見せる。だが、漫然と突入していくドイツ兵がバタバタと倒れていく場面の繰り返しであり、いわばゲーム感覚だ。「プライベート・ライアン」や「ハクソー・リッジ」とは別次元のシロモノだと思った方が良い。キリアン・マーフィやジェイミー・ドーナンなどのキャストは熱演だが、ドラマ自体が煮え切らないので印象に残らない。

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