(原題:Someone to Watch over Me)87年作品。リドリー・スコット監督の唯一のラブ・サスペンスだが、彼がよく手掛けるSFや歴史物の大作とは勝手が違うせいか、あまり良い出来ではない。この手の映画に必要なキメ細かい描写や緻密なプロットが不在のまま、いつもの大味なタッチで臨んでしまったようだ。
父の遺産で優雅な一人暮らしをしている若い女クレアは、男友達が殺されるのを目撃する。犯人のベンザは彼女に現場を見られたことを知って追いかけてくるが、何とか逃げ延びて警察に駆け込む。彼女の護衛を担当するのは、ニューヨーク市警の新米刑事のマイクと彼の先輩のT・Jだった。マイクはクレアのセレブな生活を知って驚くが、飾らない人柄の彼女に次第に惹かれていく。
だが、マイクの妻はそれを知ってしまい、夫婦仲は険悪になる。やがてベンザは逮捕されるが、証拠不十分で釈放。彼は殺し屋をさし向けてマイクとT・Jを襲うと共に、マイクの妻子を人質にとってクレアの引き渡しを要求する。マイクは警察隊と共に現場に急行するのだった。
目撃者が犯人に狙われるという話は、過去に数多く取り上げられてきたわけだが、本作に突出した見所があるわけではない。ストーリーは平板で山場が無く、濃いキャラクターが出てくるわけでもない。ラブストーリーとしても、クレアやマイクの妻の内面がほとんど描かれていないので、ほとんど盛り上がらない。そもそも、どちらも主人公にとって都合の良い存在でしかなく、もちろん恋のさや当てなんかには無縁である。
ただし、全然観る価値は無いのかといえば、そうでもない。まず、キャストが良い。主演のトム・ベレンジャーは後年のオッサン然とした出で立ちとは大違いの、シャキッとした二枚目ぶりで、実に絵になる。クレアに扮するミミ・ロジャースは、往年のハリウッド黄金時代のスターを思わせるゴージャスさと気品がある。そして、この監督らしい人工的な映像美が光る。特にニューヨークの夜景はタメ息が出るほどだ。
音楽はマイケル・ケイメンが担当して流麗なスコアを提供しているが、それよりも印象的なのはタイトルにもあるジャズのスタンダード・ナンバーだ。オープニングはスティング、エンディングはロバータ・フラックによって歌われているが、どちらも絶品である。内容に関しては深く突っ込まず、映画の“外観”だけをムーディーに楽しむには、もってこいの映画だと言える。