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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「情熱のピアニズム」

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 (原題:MICHEL PETRUCCIANI/BODY & SOUL )ドキュメンタリー映画としては正攻法の作りで、送り手によるいわゆる“作家性”等とはほぼ無縁の作品だ。しかし、本作に関してはそのことが何ら欠点にならない。描くべき対象が屹立した存在感を保持している場合、製作側による小賢しい“演出”など不要である。

 この映画の主人公、ミシェル・ペトルチアーニは生まれつき骨がもろく、成長しても身長が1メートルぐらいにしかならなかった。骨折なんか日常茶飯事で、自分ではロクに歩けない。しかし、彼には驚異的な音楽的才能があった。一度聴いた楽曲はすべて覚え、ピアノを弾く際の指の動きは健常者よりもはるかに速い。ジャズの名門ブルーノート・レーベルが契約した初めてのフランス人ミュージシャンが彼だ。

 さらにペトルチアーニは、底なしの快楽主義者でもあった。良くしゃべり、良く飲み食いし、常に好奇心旺盛。そして女には目が無かった。36年間の短い生涯の中で5人も6人も結婚・同棲相手がいて、子供も2人残している。こういう突出したキャラクターを前にして、映画監督ごときが策を弄して何になろう。本業の音楽活動と華々しい私生活。この二つを丹念に追っていれば、あとは“小さな巨人”であるペトルチアーニが盛り上げてくれる。

 演出のマイケル・ラドフォードは「イル・ポスティーノ」の監督として知られるが、今回は彼の個性はあまり出ていない。ハッキリ言って、彼でなくてもある程度の技量を持った演出家(注:音楽好きに限る)ならば誰でも良かったのではなかろうか。ただ、父親と同じ病気を持つ彼の息子の屈託を挿入したのは(作劇にアクセントを付けるという意味で)ラドフォードの手柄だと思う。

 私はミシェル・ペトルチアーニのディスクはブルーノート版のベスト物しか持っていないが、不自由な身体で弾いているとは思えないほどパワフルで、かつ美しい。劇中で彼がローマ法王の前で演奏するシーンがあるが、法王も彼のパフォーマンスは“(神が与えた)奇跡”だと思ったことだろう。音楽ファンならば要チェックの映画である。

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