所有しているアナログレコードの中で録音が優秀なものを紹介したい。まず取り上げるのが、16世紀にイングランドで活躍した作曲家、ジョン・ダウランドの室内楽曲やリュート独奏曲、歌曲などを集めたディスクで、演奏はパリ古楽奏団。79年録音。タイトルは「パヴァーヌ、ガイヤルド、エア、アルマンドと幻想曲」。フランスのCALIOPEレーベルからリリースされている。
パリ古楽奏団は6人編成。うち5人がリコーダー奏者だという。曲自体は親しみやすいもので、誰が聴いても違和感は覚えないであろう。特にパヴァーヌは美しい旋律でしみじみと聴かせる。だが、本作の存在価値は録音にある。とにかく、レコーディング状況がユニークなのだ。
録音はスタジオでは行われていない。かといってライヴ会場や教会の中でもない。レコーディング場所は普通の人家、それも古い建物の庭先である。かなりデッドな状態になるが、各音像は丁寧に録られており、切れ味は不足気味ながらボケたところはない。そして、このレコードには外部の“ノイズ”も収録されている。具体的には、小鳥のさえずりと家の前を通る自動車の音だ。
B面5曲目のリュートのソロでは、演奏者のバックにしっかりと小鳥が定位し、盛大に鳴き声を聴かせる。自動車は遠慮会釈無く家の前を横切っており、向かって右から左に走っているのが分かる。これらは決して音楽の進行を邪魔するものではなく、逆にのどかな雰囲気で興趣を盛り上げてくれる。メジャーなレーベルでは決して採用されないであろう録音形式だが、面白さでは随一だ。
スウェーデンのBISレーベルといえば、73年の創立から意欲的にクラシック系のソースをリリースしており、好録音の多いブランドとして知られるが、今回紹介するのは79年に録音されたトランペットとピアノのデュエットによるディスクだ。トランペットはエドワード・タール、ピアノはエリザベート・ヴェシュンホルツという奏者は馴染みは無いが、実績を積んだ手練れだということだ。
曲目はガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」、マルティヌー、アレクシウス、ヒンデミットの各ソナタである。「ラプソディー~」を除けば知らないナンバーばかりだが、どれもクールな曲想とハーモニーの面白さで聴かせてくれる。ユニークなジャケット・デザインは小学生の絵を採用したらしい。
録音はデンマークの高校で行われている。とにかくトランペットの音が最高だ。艶やかなサウンドが広い音場の中に吸い込まれていく様子には、感心するしかない。なお、トランペットは曲によってBACHとYAMAHAのものが使い分けられているらしいが、両者の音の違いも明確に描かれている。BACHはくすんだ渋い音で、YAMAHAは闊達で明るい。ピアノの音は幾分硬いが、適度なエコーが付随して気にならない。
BISレーベルのディスクは他に数枚保有しているが、どれも音が良い。機会があればまた取り上げたい。
経営危機に陥っている東芝が昔レコード会社を持っていたことは以前の書き込みで述べたが、その東芝EMIの創立20周年記念ディスク(非売品)が、なぜか実家のレコード棚にある。優秀録音ではないのだが、面白いので紹介したい。
このレコードが製作されたのは70年代半ばだと思われるが、東芝EMIの創立が73年なので、これはその前身である“東芝レコード”の設立から数えて20年目という形で作られたのだろう。2枚組で、1枚は邦楽、もう1枚は洋楽が収められている。邦楽は短縮ヴァージョンが中心だが、洋楽は全てフルコーラスだ。
興味深いのが、曲の合間に創立から“20周年”までの音楽シーンの概要がナレーションとして挿入されていることだ。その口調は何のケレンもない真面目なものだが、賑々しいヒット曲の数々と並べられると、ミスマッチな興趣を呼び込む。
収録されている楽曲はどれも懐かしいものばかりだが、個人的にウケたのが米国のカントリー歌手ジェリー・ウォレスの「マンダム 男の世界」(原題は「LOVERS OF THE WORLD」)。ある年代より上の者達にとってはお馴染みの、チャールズ・ブロンソンをフィーチャーした男性化粧品のCMに使われたナンバーだ。もちろんヒットしたのは日本のみで、オリコン洋楽チャートでは1位を獲得しており、70年度の年間総合チャートでも20位にランクインしている。昔はヒット曲のジャンルの幅が広かった。
パリ古楽奏団は6人編成。うち5人がリコーダー奏者だという。曲自体は親しみやすいもので、誰が聴いても違和感は覚えないであろう。特にパヴァーヌは美しい旋律でしみじみと聴かせる。だが、本作の存在価値は録音にある。とにかく、レコーディング状況がユニークなのだ。
録音はスタジオでは行われていない。かといってライヴ会場や教会の中でもない。レコーディング場所は普通の人家、それも古い建物の庭先である。かなりデッドな状態になるが、各音像は丁寧に録られており、切れ味は不足気味ながらボケたところはない。そして、このレコードには外部の“ノイズ”も収録されている。具体的には、小鳥のさえずりと家の前を通る自動車の音だ。
B面5曲目のリュートのソロでは、演奏者のバックにしっかりと小鳥が定位し、盛大に鳴き声を聴かせる。自動車は遠慮会釈無く家の前を横切っており、向かって右から左に走っているのが分かる。これらは決して音楽の進行を邪魔するものではなく、逆にのどかな雰囲気で興趣を盛り上げてくれる。メジャーなレーベルでは決して採用されないであろう録音形式だが、面白さでは随一だ。
スウェーデンのBISレーベルといえば、73年の創立から意欲的にクラシック系のソースをリリースしており、好録音の多いブランドとして知られるが、今回紹介するのは79年に録音されたトランペットとピアノのデュエットによるディスクだ。トランペットはエドワード・タール、ピアノはエリザベート・ヴェシュンホルツという奏者は馴染みは無いが、実績を積んだ手練れだということだ。
曲目はガーシュインの「ラプソディー・イン・ブルー」、マルティヌー、アレクシウス、ヒンデミットの各ソナタである。「ラプソディー~」を除けば知らないナンバーばかりだが、どれもクールな曲想とハーモニーの面白さで聴かせてくれる。ユニークなジャケット・デザインは小学生の絵を採用したらしい。
録音はデンマークの高校で行われている。とにかくトランペットの音が最高だ。艶やかなサウンドが広い音場の中に吸い込まれていく様子には、感心するしかない。なお、トランペットは曲によってBACHとYAMAHAのものが使い分けられているらしいが、両者の音の違いも明確に描かれている。BACHはくすんだ渋い音で、YAMAHAは闊達で明るい。ピアノの音は幾分硬いが、適度なエコーが付随して気にならない。
BISレーベルのディスクは他に数枚保有しているが、どれも音が良い。機会があればまた取り上げたい。
経営危機に陥っている東芝が昔レコード会社を持っていたことは以前の書き込みで述べたが、その東芝EMIの創立20周年記念ディスク(非売品)が、なぜか実家のレコード棚にある。優秀録音ではないのだが、面白いので紹介したい。
このレコードが製作されたのは70年代半ばだと思われるが、東芝EMIの創立が73年なので、これはその前身である“東芝レコード”の設立から数えて20年目という形で作られたのだろう。2枚組で、1枚は邦楽、もう1枚は洋楽が収められている。邦楽は短縮ヴァージョンが中心だが、洋楽は全てフルコーラスだ。
興味深いのが、曲の合間に創立から“20周年”までの音楽シーンの概要がナレーションとして挿入されていることだ。その口調は何のケレンもない真面目なものだが、賑々しいヒット曲の数々と並べられると、ミスマッチな興趣を呼び込む。
収録されている楽曲はどれも懐かしいものばかりだが、個人的にウケたのが米国のカントリー歌手ジェリー・ウォレスの「マンダム 男の世界」(原題は「LOVERS OF THE WORLD」)。ある年代より上の者達にとってはお馴染みの、チャールズ・ブロンソンをフィーチャーした男性化粧品のCMに使われたナンバーだ。もちろんヒットしたのは日本のみで、オリコン洋楽チャートでは1位を獲得しており、70年度の年間総合チャートでも20位にランクインしている。昔はヒット曲のジャンルの幅が広かった。