(原題:Scarface)83年作品。公開当時はあまり良い印象は受けなかったが、今から考えると独特のニューロティックな存在感と迫真性があって、それなりの価値はあったのだと思い当たる。監督ブライアン・デ・パルマのフィルモグラフィの中でも、まあマシな部類に属するだろう。
80年、キューバの反体制分子として国外追放処分になったトニー・モンタナとマニー・リベラは、マイアミの麻薬密売組織のボスであるフランクの配下におさまる。だが、独断でボリビアの麻薬カルテルの元締めであるソーサとの取引を成立させたトニーを疎ましく思った小心者のフランクは、トニーを粛正しようとするが失敗し、逆に消されてしまう。組織はトニーのものになり、彼はフロリダの暗黒街の頂点に上り詰める。ところが自身も麻薬の常習者になり、迷走した挙げ句に当局側に目を付けられ、ついにはソーサとも対立。破滅への道を歩み始める。
脚本は「プラトーン」(86年)でブレークする前のオリヴァー・ストーンで、彼特有の過剰な描写が満載。デ・パルマのケレン味たっぷりの演出も相まって、派手な場面の連続だ。しかし展開は冗長で、余計なシーンも散見される。たとえばトニーと情婦エルヴィラとの関係はもっと削って良かったし、ソーサ一味とのやりとりもスッキリさせて欲しかった。結果、3時間近い上映時間に繋がったことは愉快になれない。ちなみに本作の元ネタであるハワード・ホークス監督の「暗黒街の顔役」(1932年)は1時間半である。
とはいえ、主人公の造型は見事だ。演じるアル・パチーノは怪演そのもので、特に頻繁にコカインを吸って気合いを入れるあたり、本当にヤク中なのではないかと思われる凄みを出している。「暗黒街の顔役」がイタリアン・マフィアの話であったのに対し、本作は中南米のギャングどもが中心。言うまでもなく今はアメリカ社会を悩ませているのは主にこいつらで、現代性は感じられる。
スティーヴン・バウアーやミシェル・ファイファー、メアリー・エリザベス・マストラントニオといった他のキャストも良い。音楽を担当していたのはジョルジオ・モロダーで、本職のプロデューサー業も含め、この頃は彼の全盛期だった(もっとも、今でもバリバリの現役であるが ^^;)。