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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「サバイバルファミリー」

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 いつもは素材に対する綿密な下準備をもって臨む矢口史靖監督らしくない、何とも乱雑な映画だ。製作にはフジテレビジョンが関与しているが、昨今のこのテレビ局の不調ぶりが影響しているようにも思えてしまう。とにかく、最初から最後まで違和感が横溢しているような映画で、あまり奨められないシャシンである。

 東京で暮らす鈴木家は、会社員の主と専業主婦の妻、大学生の長男と高校生の長女からなる平凡な一家だ。ある日、電気を必要とするあらゆるものが突然使えなくなり、周囲は大混乱に陥ってしまう。交通機関はマヒして電話やガス、水道までが完全にストップした状態は数日経っても回復せず、鈴木家の主である義之は、家族を連れて妻の実家がある鹿児島まで行くことを決意する。

 突っ込みどころが満載の脚本には閉口してしまう。車も動かないのに旅客機は飛ぶと信じて、わざわざ遠回りして空港まで足を運ぶというナンセンスな行動をはじめとして、迷わないように高速道路を進んでいた一家がいつの間にか一般道に入り込んだり、橋の無い川をあえて渡ろうとして勝手にピンチに陥ったり、絶体絶命の状況になると都合良く助けが来たりと、安易な展開のオンパレード。

 そもそも、こういう状況だと火災が発生して都市はパニックになり、水や食料を求めて暴徒が発生してもおかしくないが、そんな気配も無い。サバイバル・ストーリーであるにも関わらず、主人公達は一度も自ら火をおこさないし、野草も採らないし、川の水を煮沸することもないのだ。どうやって鹿児島までたどり着くのかと思ったら、途中から事態が“急展開”してしまうのには参った。ラストの処理も脱力するばかり。

 まあ、おそらくは過酷な道程を経てバラバラだった家族が団結するという構図を狙ったのだろうが、それにしてはこの鈴木家、ゴーマンで自分勝手な奴ばかりで全然感情移入できない。これではドラマ的なカタルシスも期待できないだろう。

 義之に扮する小日向文世や妻役の深津絵里、子供を演じる泉澤祐希と葵わかなは好演。徳井優や時任三郎、宅麻伸、柄本明、大地康雄といった他の面子も悪くはない。しかしながら、斯様なグダグダの筋書きでは彼らの頑張りも徒労に終わったと言える。・・・・というか、家族の絆を描きたいのならば、他の設定がいくらでもあったはずだ。

 余談だが、本作を観て思い出したのがマルク・エルスべルグの小説「ブラックアウト」だ。大規模テロによってヨーロッパ中が停電してパニックに陥るという話だが、同じ“停電ネタ”ならば、こういうストーリーの方が説得力があるのは言うまでもない。

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