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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「ザ・コンサルタント」

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 (原題:THE ACCOUNTANT)話の組み立て方は悪くないし、観ている間は(ラストを除いて)退屈しないが、鑑賞後には内容を忘れるのも早い。これはひとえに、単なる活劇編を超えるようなモチーフを提示出来ていないからだ。しかも“何とか新味を出してやろう”という思いが前面に出ているものの、それが上手く達成されていない結果を突きつけられると、何ともやるせない気分になってくる。

 主人公クリスチャン・ウルフは、シカゴ郊外に小さな事務所を構える会計士だ。口数が少なく派手さは無いが、的確に依頼人の要望に応えるため、評判は良い。だが、彼の本当の姿は、世界中の怪しげな組織の裏帳簿を仕切り、なおかつ邪魔者を始末する掃除屋だ。ウルフはある大手電機メーカーの財務調査を引き受けたところ、巨額の不正経理を見つける。そのことを会社幹部に話した途端、経理担当者のデイナ共々何者かに命を狙われるようになる。一方、財務省の監査部門に勤めるメリーベスは、上司のレイモンド・キングから裏社会の会計処理を請け負う謎の人物の調査を依頼される。だが、レイモンドにはこの男を追う別の目的があった。

 会計士という“表の顔”の設定は興味深いし、多国籍企業の阿漕な遣り口の描写も悪くない。さらには主人公が自閉症であったにも関わらず、厳格な父親はウルフが子供のころからスパルタ式に鍛え上げ、結果屈折した内面を持った人間に育ってしまったという設定は作者の良い意味での気負いが感じられる。

 しかし、主人公がどうして凄腕のスイーパーになったのか、その経緯が説明されていない。ウルフに指令を出す謎の“元締め”の存在も暗示されるが、思わせぶりな描写で終わってしまう。だいたい会計士のくせに帳票を“手書き”で表示しないと内容が分からないというのは、見ていて脱力した(システムのデータをディスプレイ上でチェックすれば済む話だろう)。

 アクション場面はスピード感はあるが、工夫がない。他の凡百の活劇映画と変わらないレベルだ。極めつけはあのラスト。ウルフは敵方のリーダーが自身に近しい“ある人物”であると認識するのだが、そこから急にナアナアの展開になり、煮え切らないまま終わる。それまでの大立ち回りは何だったのかと、首を傾げるばかりだ。

 ギャビン・オコナーの演出は可もなく不可もなし。主演はベン・アフレックだが、盟友のマット・デイモンの「ジェイソン・ボーン」シリーズに対抗するかのような役柄ながら、あまりサマになっていない。もっとギラリと光る内面の凄みを出して欲しかった。脇にはアナ・ケンドリックやJ・K・シモンズ、ジョン・バーンサル、ジョン・リスゴーといった多彩な顔触れが揃っているのだが、いずれも使いこなせていない。カメラワークは平凡。マーク・アイシャムの音楽だけは良かった。続編はいくらでも作れそうだが、本国でも大ヒットはしていないようだし、実現は難しいかもしれない。

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