(原題:破風 To the Fore)何やら連続テレビドラマの総集編を見ているような感じだ。フィルム撮りではなく、いかにもデジカムで間に合わせたような、奥行きの無い平板な画面がそれを強調する。上映時間が長すぎるのも愉快になれない。ただし、香港のアクション派の最右翼であるダンテ・ラム監督の持ち味は出ていると思う。その意味では観る価値はあるかもしれない。
台湾の自転車レースチーム“ラディアント”はアジアリーグの上位を狙う強豪だ。主力はジウォン、ミン、ティエンの3人。巧みなチームプレイでライバル達と激闘を繰り広げる。だが、スポンサーが手を引いたことから“ラディアント”は経営難に陥り、やがて破綻する。3人は別々のチームに移り、今度は競争相手として相対することになる。ミンは移籍先でもエースになるが、暴力事件を起こし出場停止に。その間にティエンが新チームの中心になりレースで結果を出す。彼らが思いを寄せる女子選手のシーヤオとの関係を描きつつ、映画はリーグ最終戦と、その後の3人の軌跡を追う。
活劇シーンには定評のあるラム監督らしく、レース場面はかなりのものだ。張り詰める筋肉と上昇する心拍数。体力の限界に挑む選手達の緊張が伝わってくる。この競技は個人の記録よりもチームとしての成績が重視される。さまざまなフォーメーションを繰り出し、相手チームを牽制しつつ、風などの気象条件も勘案して、最良の条件を形成するべく緻密な作戦を練る。そのプロセスは面白い。
街中のレースはもとより、カーブやトンネルが連続する山岳コースや、開放的な海浜コース、さらには砂嵐が吹き荒れる沙漠のレースなど、舞台にヴァラエティを持たせているのも良い。さらには競輪やトラックレースも紹介され、作者のサービス精神が横溢していると言えよう。
ただし、見せ場を盛り込みすぎたため、どこがクライマックスなのか分からなくなってくる。個々のレースの描写は優れているが、同程度のヴォルテージが連続している感じで、作劇にメリハリが無くなった。ここは登場人物達が最も重要視する大会をメインに持ってきて、物語全体をそこに集約させた方が興趣が高まったはずだ。そして主人公3人はタイプが違うことが示されてはいるが、意外なほどキャラクターの描き分けが成されていない。もっと個性の違いを際立たせるエピソードがあっても良かった。
主役を務めるチェ・シウォン、エディ・ポン、ショーン・ドウは健闘していて、本物の自転車レーサーに見えるような肉体を作り上げていることは評価出来よう。ヒロイン役のワン・ルオダンも清楚な感じが印象的で、ヘンリー・ライの音楽も悪くない。それだけに一本調子の展開は残念である。