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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「聖の青春」

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 派手さは無いが、観ていてしみじみとした感慨を覚える佳作だと思う。将棋の対局を映画らしいケレンを付加してスペクタキュラーに描くというような、そういう向こう受けを狙うような素振りは見せない。ここで描かれるのは“天才”に生まれついた主人公の生活と、“それ以外”の世界との慄然とするような格差である。それを最も上手く表現しているのが、対局の合間に(一見無関係に思える)ハイスピードのカットが差し込まれるという仕掛けだ。

 主人公にも名も無き市井の人々にも、間違いなく平等に時間は流れている。しかし、天才と凡人とでは時間の流れ及び密度がまるで異なっている。そして両者は決して融合することは無い。生きる時間が限られた主人公にとって、その厳然たる事実を前にしてはただ懊悩するしかない。その切なさが胸を打つ。

 幼い頃から腎臓の難病である腎ネフローゼを患い、入退院を繰り返した村山聖(むらやま・さとし)は、入院中に何気なく父から勧められた将棋に夢中になる。めきめき上達した彼は、やがてプロを目指す。長じて活躍の場を東京にも広げた彼は、同世代のライバルである羽生善治に出会い、生涯にわたって競い合うことを夢見る。しかし聖の病状は悪化していく一方だった。若くして世を去った伝説のプロ棋士・村山聖(さとし)の生涯を描いた大崎善生による同名ノンフィクション小説の映画化だ。

 主演の松山ケンイチのパフォーマンスには目を見張らされる。彼は役作りのため20キロ以上も体重を増やしたとのことだが、そんな肉体改造云々よりも、演技力でこの主人公像を引き寄せているのが素晴らしい。たぶん実際の村山聖もこういう人だったのだろうと観る者に思わせるほどの熱演だ。

 羽生善治には東出昌大が扮しているが、今回はセリフが極端に少ないので、彼の大根ぶりが全面展開するという困った事態には至っていない(笑)。少なくとも見た目は羽生の飄々とした雰囲気を良く出していたと思う。それどころか2人の最後の対局場面ではよく健闘していて(心ならずも)感心してしまった。

 染谷将太や安田顕、柄本時生、竹下景子、リリー・フランキーといった脇の面子もそれぞれ持ち味を出して主役をフォローしている。森義隆の演出に接するのは初めてだが、幾分まだるっこしい部分があるものの、腰を落ち着けてじっくり対象を見つめる姿勢には好感が持てた。寒色系を活かした柳島克己の撮影、半野喜弘の音楽、秦基博による主題歌、いずれも申し分ない。

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