前回と同じく3つのエピソードから成るが、そのうち最後のパートだけは好きになれない。聞けばこの部分だけ原作(安倍夜郎によるコミック)と離れた映画オリジナルらしく、違和感を覚えたのはそのせいかもしれないが、いずれにしても鑑賞後の印象は格別とは言い難いのには困った。
第三話の中心人物は福岡から上京してきた老女・夕起子だ。東京駅で不慣れな携帯電話で会話した後、夜遅くに路上で胡散臭そうな男に現金の入った封筒を渡す。相手は彼女の息子の同僚と名乗り、金を受け取るとそそくさと去って行った。彼女は帰ろうとタクシーに乗るのだが、偶然にも運転手は深夜食堂のマスターの知り合いである晴美だった。夕起子の話を聞いておかしいと思った晴美は、よもぎ町交番に彼女を連れて行く。警官の小暮は事情を聞くと共に、マスターに夕起子の面倒を見てくれるように頼む。
要するに“振り込め詐欺”(この場合は“来て来て詐欺”だが)に引っ掛かった老人を、レギュラーメンバー達がフォローする話だ。夕起子は実の息子の連絡先どころか消息さえも知らない。もちろんこれには理由があるのだが、いくら御都合主義が約束事の当シリーズとはいえ、牽強付会に過ぎるのではないだろうか。百歩譲ってそういう背景があるとしても、簡単に詐欺に遭うとは考えられない。
さらに言えば、夕起子と息子との折り合いの付け方にしても、詐欺事件の顛末にしても、何とも煮え切らない展開で不満が残る。そして何より、いくら福岡は東京から遠いといっても、こんなにも世間知らずでナイーヴな年寄りがいるとは納得しがたい。とにかく“博多ごりょんさん”をナメたらいかんばい(笑)。たぶん食堂のメインメニューの由来に言及したいためにこのエピソードを用意したのだろうが、もうちょっと筋書きを練り上げて欲しかった。
残り二つのパートは楽しめる。喪服を着ることがストレス発散になるという変わった趣味を持つ女が、本当の通夜の席で出会った渋い中年男性に惹かれていく話は、絶妙のオチも付いて大いにウケた。近所にあるそば屋の息子・清太が、なかなか子離れしてくれない母親・聖子に、10歳以上も年長の恋人さおりとの結婚を言い出せずに悶々とする話も、予定調和ながらしみじみと見せる。
マスター役の小林薫をはじめ、佐藤浩市、池松壮亮、キムラ緑子、小島聖、多部未華子、片岡礼子、谷村美月、オダギリジョーなど、豪華な顔ぶれを揃えながらそれぞれの個性を発揮させている松岡錠司の演出はソツがない。このシリーズの売り物である料理の描写も絶妙で、今回は焼肉定食と焼きうどん、豚汁定食がフィーチャーされるが、どれもすこぶる旨そうだ。新宿の裏通りのセットは申し分なく、お馴染みの鈴木常吉による主題歌も効果的だ。それだけに、第三話のヴォルテージの低さは惜しいと思う。