(原題:TRUTH )マスコミのあり方を問うた映画としては、今年(2016年)オスカーを受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」よりも面白い。ジャーナリストを手放しで称賛するようなものではなく、かといってマスコミの欺瞞を暴くものでもない、冷静なスタンスで対象を見つめる作り手の真摯な姿勢が印象的な作品である。
ジョージ・W・ブッシュ米大統領が再選を目指していた2004年、米国の大手放送メディアの一つであるCBSのプロデューサーであるメアリー・メイプスは、ベテランの人気ジャーナリストのダン・ラザーが司会を務める報道番組で、ブッシュの軍歴が詐称されていた疑いがあるというスクープを取り上げ、センセーションを巻き起こす。
ところが、CBS側が掴んだ“決定的証拠”を保守派勢力から“偽造ではないか”と指摘されたことから状況は一転。放送局は世間からバッシングを浴びるが、この問題に対処するためCBSの幹部は内部調査委員会を設置。リサーチを開始すると共に、番組スタッフを召還して事情を聞くことにする。メアリーやダンは何とか自説が正しいことを証明しようと各関係者を取材し直すが、結果は捗々しいものではなかった。経営陣からの喚問の日を間近に控え、メアリーは弁護士を雇って事態の打開を図ろうとする。メアリー・メイプス自身の手記の映画化だ。
ブッシュのこのスキャンダルがいまだ明るみに出ていないことから分かるように、本作はジャーナリズムの敗北を描いている。ならばマスコミの報道の仕方を指弾した作品なのかというと、そうではない。誰でもミスはする。大切なのは、それに対する当事者の姿勢だ。
メアリー達は、保守派勢力の主張を覆そうと必死になって反論の材料を集めようとする。しかし、どれも決定的なモチーフとはなり得ない。逆に、自らの対処の甘さを痛感することになる。また、本来は政治家のスキャンダルと政策の是非こそが報道の核心であるはずが、いつの間にか“誰が言った(or言わない)”という末梢的な次元に議論が追いやられてしまうマスコミ業界の不条理をも焙り出すことになる。
メアリーとダンは事が終わった後、キッチリと責任を取る。特にダンは長年アンカーマンを務め、局の看板でもあっただけに決断するには懊悩もあったことだろう。しかしながら、華々しいスクープをモノにすることだけがマスコミ人の役目ではない。状況に応じて引き際を見極めることも、重要なことなのだ。そのことを真面目に取り上げた本作の“手柄”は、決して小さいものではない。
これがデビュー作となるジェームズ・ヴァンダービルトの演出は派手さは無いが堅実で、対象を的確に追っていく真面目なスタンスが見て取れる。主演のケイト・ブランシェットとロバート・レッドフォードの演技は申し分ない。特にリベラル派のレッドフォードが一敗地に塗れたジャーナリズムを扱う作品に出たことは、感慨深いものがある。明らかな間違いを指摘されても謝罪どころか反省もしない、どこぞの国の大手マスコミの体質を考える上でも、観て損のない映画だと言える。