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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「AMY エイミー」

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 (原題:AMY )退屈な内容だった。しかし、別の者が製作を担当したら“退屈ではない内容”に仕上げることが出来たのかというと、それも違う。誰がどう撮っても、現時点では“この程度”のものになるだろう。要するに、時期的には映画化して成果を上げるようなネタではないということだ。

 2011年7月23日に27歳の若さでこの世を去ったイギリスの歌手エイミー・ワインハウスの生涯を追ったドキュメンタリーで、監督は「アイルトン・セナ 音速の彼方へ」(2010年)などのアシフ・カパディア。第88回アカデミー賞で長編ドキュメンタリー賞を受賞している。

 ワインハウスはミドルセックス州エンフィールド出身で、2003年にアルバム「フランク」をリリースしてデビュー。英国内で67万枚を超えるヒットとなる。2006年発売のセカンドアルバム「バック・トゥ・ブラック」は全世界で千二百万枚以上を売り上げ、2008年の第50回グラミー賞では5部門を受賞するなど、人気は絶頂を極める。しかし、薬物中毒やアルコール依存症などで私生活はボロボロ。更正施設を出たり入ったりしているうちに、ロンドンの自宅で死んでいるのを発見される。

 映画は彼女の生前の映像、そして家族や友人のコメントと共に、子供時代から時系列に沿って展開されていく。何の工夫もケレンもなく、ただ事実が淡々と並べられているだけだ。確かに彼女の短い人生は波瀾万丈だったのかもしれない。だが、若くして逝去した有名ミュージシャンは、これまで少なからず存在している。それらと比べて、ワインハウスの功績はどうなのかという議論もあろう。

 つまり、彼女はつい数年前まで生きていた人間であり、評価が確定するまでにはまだ長い時間が掛かるのだ。彼女のミュージック・シーンにおける立ち位置がある程度決まらなければ、それをドキュメンタリーとして取り上げても、作家性や恣意的なテーマの挿入などが入り込む余地はあまりない。今の時点では、このような“事実の羅列”に終わってしまうのも当然だと言える。

 個人的な感想を述べさせてもらうと、ワインハウスの音楽性はあまり好きではない。英国のシンガー・ソングライターには現在でも有能な人材がけっこういて、もし彼女が今でも生きていたとしても、生前のようにトップを走り続けた可能性はそんなに大きくはないと思う。

 ただ、彼女がソウル系ポップのスタイルで一世を風靡するのではなく、好きだったジャズの道に邁進していたらそんなに“生き急ぐ”ことも無かったのではと想像する。大規模なスタジアム・コンサートは出来なくても、ライヴハウスでコアなジャズファン相手に歌声を披露していたら、マイペースで長く活動が出来たのではないか。劇中でトニー・ベネットと会って嬉しそうにしている彼女の姿を見ていると、余計そう思う。

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