現在はアナログレコードの復権が巷間で取り沙汰されているが、CDが市民権を得た80年代後半には“レコードはもうすぐ無くなる”という認識が広がっていた。だからオーディオファンやコアな音楽ファンの間では“欲しいレコードは早急に入手しなければならない”というトレンドが形成されていたように思う。一部のレコード会社はそういう動きにつけ込むように、特別仕様のレコードを限定でリリースするケースが見られた。その中で有名だったのが、キングレコードが発売した“スーパー・アナログ・ディスク”である。
英国DECCAレーベルの往年の名盤のマスター音源を、製造工程や材質に十二分に気を遣い、重量級のディスクに仕上げたもので、価格も一枚3,800円と強気のプライスタグが付けられていた。86年から10年間ほど小刻みに発売されていて、初期の製品はアクリルケース付きという豪華さだ。かくいう私も謳い文句につられて10数枚ほど購入してしまった。今回はそのうちの2枚を紹介したい。
ウィルヘルム・バックハウスとカール・ベーム指揮ウィーン・フィルによるブラームスのピアノ協奏曲第2番は、間違いなくこの曲の代表的な名盤である。演奏はまさに横綱相撲で、その風格とスケールの大きさで聴く者を圧倒。文句の付けようが無い。
肝心の音質だが、1967年の録音ながら、かなりの高水準。人工的な音場という評価もあるだろうが、見晴らしは良い。バックハウスのピアノも骨太でシッカリと録られている。しかしながら、私はこのソースを普通のCDで聴いたことが無く、スーパー・アナログ・ディスクのアドバンテージが如何ほどなのかは認識できない。それでも豪華なジャケットの佇まいは、買って良かったと思わせるものがある。
アルベニスのスペイン組曲を、フリューベック・デ・ブルゴスがニューフィルハーモニア管弦楽団を指揮したディスクも持っている。ブルゴスはスペインに関連したナンバーを手掛けると抜群のうまさを発揮するアーティストで、本作においてもその色彩感とノリの良さは際立っている。とにかく、イギリスのオーケストラから斯様なカラフルなサウンドを引っ張り出せるという、その手腕には敬服するばかりだ。
これも1967年の録音だが、その質は高い。特に音のクリアネスには感心するしかなく、同レーベルが80年代に展開するのシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の一連の録音にどこか通じるものがあると思った。なお、このディスクはアクリルケースが付属していたが、経年劣化で退色しているのは残念ではある。しかし、今でもジャケットの保護には役立っているのは有り難い。
このスーパー・アナログ・ディスクの高評価に影響されたのか、キングレコードからDECCAレーベルの販売権を譲り受けたポリドールレコード(現ユニバーサル・ミュージック)からも似たような企画が提示された。それが“LONDON FINAL LP”である。90年代初頭にリリースされ、音源は80年代以降の比較的新しいものが中心だった。やはり重量級ディスクが特徴で、値段も通常のLPよりも上である。
私はこのシリーズも何枚か保有しているが、今回紹介するのはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」からの管弦楽曲集だ。演奏はサー・ゲオルグ・ショルティ指揮のウィーン・フィル。82年のスタジオ録音である。定評のある演奏者によるお馴染みのナンバーであり、内容は申し分ない。誰にでも勧められる。
このソースはCDでも聴いたことがあるが、明らかにこっちの方が音が良い。もちろん、使い勝手の違うメディアを同列で比較するのはナンセンスなのだが、サウンドの温度感や音像の密度の高さに関してはアナログが有利であるという“俗説”を、一瞬でも信じたくなってしまう(笑)。
ただし、このLONDON FINAL LPのライナーノーツに“いかにアナログは優れているか”ということを謳っているのには脱力した。そんなにレコードが良いのならば、簡単にソフトの主流をCDに移行させるなと言いたくなる。少なくともDECCAレーベルの音源をレコードで作り続けて欲しかった。
いずれにしても、これら限定品ディスクが発売されていた頃には、21世紀になってアナログレコードが見直されるとは関係者の誰も思っていなかっただろう。メディアの変遷は、送り手側の都合だけで勝手に形成されるものではなかったということだ。
英国DECCAレーベルの往年の名盤のマスター音源を、製造工程や材質に十二分に気を遣い、重量級のディスクに仕上げたもので、価格も一枚3,800円と強気のプライスタグが付けられていた。86年から10年間ほど小刻みに発売されていて、初期の製品はアクリルケース付きという豪華さだ。かくいう私も謳い文句につられて10数枚ほど購入してしまった。今回はそのうちの2枚を紹介したい。
ウィルヘルム・バックハウスとカール・ベーム指揮ウィーン・フィルによるブラームスのピアノ協奏曲第2番は、間違いなくこの曲の代表的な名盤である。演奏はまさに横綱相撲で、その風格とスケールの大きさで聴く者を圧倒。文句の付けようが無い。
肝心の音質だが、1967年の録音ながら、かなりの高水準。人工的な音場という評価もあるだろうが、見晴らしは良い。バックハウスのピアノも骨太でシッカリと録られている。しかしながら、私はこのソースを普通のCDで聴いたことが無く、スーパー・アナログ・ディスクのアドバンテージが如何ほどなのかは認識できない。それでも豪華なジャケットの佇まいは、買って良かったと思わせるものがある。
アルベニスのスペイン組曲を、フリューベック・デ・ブルゴスがニューフィルハーモニア管弦楽団を指揮したディスクも持っている。ブルゴスはスペインに関連したナンバーを手掛けると抜群のうまさを発揮するアーティストで、本作においてもその色彩感とノリの良さは際立っている。とにかく、イギリスのオーケストラから斯様なカラフルなサウンドを引っ張り出せるという、その手腕には敬服するばかりだ。
これも1967年の録音だが、その質は高い。特に音のクリアネスには感心するしかなく、同レーベルが80年代に展開するのシャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団の一連の録音にどこか通じるものがあると思った。なお、このディスクはアクリルケースが付属していたが、経年劣化で退色しているのは残念ではある。しかし、今でもジャケットの保護には役立っているのは有り難い。
このスーパー・アナログ・ディスクの高評価に影響されたのか、キングレコードからDECCAレーベルの販売権を譲り受けたポリドールレコード(現ユニバーサル・ミュージック)からも似たような企画が提示された。それが“LONDON FINAL LP”である。90年代初頭にリリースされ、音源は80年代以降の比較的新しいものが中心だった。やはり重量級ディスクが特徴で、値段も通常のLPよりも上である。
私はこのシリーズも何枚か保有しているが、今回紹介するのはワーグナーの楽劇「ニーベルングの指環」からの管弦楽曲集だ。演奏はサー・ゲオルグ・ショルティ指揮のウィーン・フィル。82年のスタジオ録音である。定評のある演奏者によるお馴染みのナンバーであり、内容は申し分ない。誰にでも勧められる。
このソースはCDでも聴いたことがあるが、明らかにこっちの方が音が良い。もちろん、使い勝手の違うメディアを同列で比較するのはナンセンスなのだが、サウンドの温度感や音像の密度の高さに関してはアナログが有利であるという“俗説”を、一瞬でも信じたくなってしまう(笑)。
ただし、このLONDON FINAL LPのライナーノーツに“いかにアナログは優れているか”ということを謳っているのには脱力した。そんなにレコードが良いのならば、簡単にソフトの主流をCDに移行させるなと言いたくなる。少なくともDECCAレーベルの音源をレコードで作り続けて欲しかった。
いずれにしても、これら限定品ディスクが発売されていた頃には、21世紀になってアナログレコードが見直されるとは関係者の誰も思っていなかっただろう。メディアの変遷は、送り手側の都合だけで勝手に形成されるものではなかったということだ。