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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「バイオレンス」

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 (英題:Rage)95年フィリピン作品。一般公開はされておらず、私は96年のアジアフォーカス福岡映画祭で観ている。結婚を間近に控えたルイサ(マリセル・ソリアーノ)は、ある雨の日に悪徳警官のエリック(トントン・グチェレス)にレイプされてしまう。結婚後もそのショックが抜けず、夫のジェイク(リチャード・ゴメス)を拒み続けたため、元々粗暴な性格のジェイクから日々手ひどい暴力を受ける。

 そんな時彼女はエリックと偶然再会。エリックは彼女の境遇に同情し、夫殺しを持ちかける。湖に沈められた夫は事故死として処理され、ルイサはエリックとねんごろな仲になるが、話はそこで終わらなかった・・・・。本国では大ヒットしたというサスペンス編で、監督はアメリカ在住経験もあるのチト・ローニョ。

 いかにもフィリピン大衆娯楽映画の泥臭い外見だが、けっこう面白く観た。それは登場人物の心理を丁寧に追っているからで、どこぞの粗製濫造サスペンスみたいにステレオタイプの役柄をハメこんで、あとは小手先の処理で見せようとする姿勢とは一線を画していると思う。

 特にルイサのキャラクターが出色で、演じるソリアーノは少々オバサン臭いが、自分をレイプした相手に気を許して結果的に夫を殺すように仕向ける(それも無意識を装って)ふてぶてしさが何やら今村昌平の映画に出てくる女たちを連想させる。決して犠牲者としては描かれず、外見的に無力であることを逆手に取った狡猾さが面白い。

 男二人は暴力の権化として捉えられるが、それが異常でも何でもなく、冒頭の路上の殺し合いを皆が涼しい顔して眺める場面からもわかる通り、フィリピンでは普通であることを強調しているのはちょっとしたショックだった。

 結婚祝いに送られたライフル銃や、ルイサが結婚当初にベッドの下に隠すナイフ、エリックが取調中に射殺した無実の男のエピソードなど、いくつかの前振りがすべてクライマックスの伏線になっている設定。ルイサの同僚がいつも話しているグロテスクな寓話がルイサの状況を暗示していく展開もうまい。

 ラスト近く、死んだと思っていたキャラクターが実はゾンビのごとく生きていてルイサを追いつめる場面は、素朴なタッチ(?)ながらけっこうハラハラさせられる。そして最後の強引なオチは、アメリカ映画でやると大顰蹙ものながら、荒削りなフィリピン映画では許されるだろう。

 なお、ジェイク役のゴメスは当地では若手ハンサム・スターの代表として通っていたそうな。スターにこういう血の気の多い役を平気でやらせてしまうのが、お国柄をあらわしているようで興味深かった。

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