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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「嵐が丘」

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 (原題:WUTHERING HEIGHTS)92年イギリス作品。 ヨークシャーの荒野を舞台に、愛と復讐を描いたエミリー・ブロンテのあまりにも有名な原作の、数多い映画化作品の一つ。「嵐が丘」といえば1939年に名匠ウィリアム・ワイラーがメガホンをとった傑作を思い出す映画ファンが多いと思うが、今回のこの作品はそれに及ばないまでも、かなり肉迫した力作になっており、見方によってはワイラー版をしのぐ部分さえある。

 ヒースが咲きほこるヨークシャーの丘に建つ、“嵐が丘”に住むアーンショ一家。ある日、父親が神からの授かりものだと言って連れてきた少年ヒースクリフが、娘キャシーとその兄ヒンドリーの運命を大きく変えてしまう。父親が死に、もともとヒースクリフを毛嫌いしていたヒンドリーが彼を下男扱いし始める。そのために寡黙で反抗的な青年に成長してしまったヒースクリフ。彼の心の拠りどころはキャシーただひとりだった。2人は強い信頼と、そして愛情で結ばれていたが、農場主、リントン兄妹との出会いがキャシーの心を変えてしまう。

 冒頭と最後にブロンテ自身を登場させて時間の流れを立体的に描き出した点にまず、ドキュメンタリー映画出身で、今回一般映画デビューとなるピーター・コズミンスキー監督の才気が感じられる(こういうやり方は時によってあざとく感じられるが、この映画は違和感がない)。撮影を担当したマイク・サウソンのカメラがとらえるヨークシャーの風景は、息を呑むほどに美しい。特に自然光の使い方には感心した。効果的に挿入されるSFXを含めて、映像の力を思い知らされる作品だ。そして坂本龍一の音楽は、「戦場のメリークリスマス」と並んで彼の代表作になることは確実だろう。流麗な旋律は観る者を恍惚とさせる。

 しかし何よりの勝因は、キャシー役にジュリエット・ビノシュを起用したことだろう。当時は若手女優の宝庫であったフランス映画界の中にあって、とりわけ存在感が光っていた彼女は、この映画のために英語の発声訓練を受け、イギリス文学史上最高のヒロインを熱演している。歴代のキャシー役の中で、一番魅力的じゃないかと思う。ヒースクリフ役のレイフ・ファインズのことなどすでに忘れてしまった(笑)。

 そしてこの映画が他の「嵐が丘」に比べて特筆される点が、ラストが違うことだ。ここでは明かせないが、それによって映画がすっきりとした明るさを持ったことは確かだろう

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