(原題:THE MARTIAN )平凡な出来だとは思うが、最近のリドリー・スコットの監督作の中ではマシな方だ。少なくとも、同じ“宇宙もの”としては突っ込みどころが多すぎて閉口するしかなかった「ゼロ・グラビティ」とは違い、観ていてあまり腹も立たない(笑)。
人類3度目の有人火星探査ミッションで、6人の隊員達は火星での作業中に大嵐に襲われ、撤退するハメになる。しかし、メンバーの一人であるマークは突風で吹き飛ばされた機材の直撃を受け、行方不明になってしまう。指揮官のメリッサをはじめとしてスタッフ達は必死の捜索を続けるが、マークを見つけることが出来ない。彼は死んだものと判断され、やむなく5人は火星を離れて地球への帰途につく。
ところがマークは生きていた。次の探査ミッションのクルーが火星にやってくるのは(地球時間で)4年先だ。それまで何としても生き抜かなければならない。彼の厳しいサバイバル生活が始まる。一方、NASAもマークの生存に気付き、救援物資を送るための準備を始める。アンディ・ウィアーによるベストセラー小説(私は未読)の映画化だ。
植物学者でもある主人公の特質を活かし、水と食料を確保するくだりは説得力がある。4年後のコンタクト地点に向かうための方法を模索するあたりも興味深い。だが、途中で発生する重大なトラブルの全容が掴めない。加えて、マークを救出する手段はいささか乱暴だ。もっと“現実感”のある展開を望みたいところ。
マークのキャラクター設定は良く出来ているが、他の隊員達の存在感は希薄だ。そもそも隊長のメリッサからして、絵に描いたようなドライなキャリアウーマン風であるのには、いささかゲンナリした。NASAのスタッフに至っては、皆深刻そうな素振りは見せるものの、誰一人キャラが立っていない。責任者と現場のクルー、そしてアイデアを出してくるオタクっぽい野郎、皆“与えられた役どころを、取りあえずこなした”という程度の印象しか受けない。ここで主人公と拮抗するような登場人物を出していれば、かなりドラマも引き締まったはずだ。
主演のマット・デイモンは熱演だが、脇にジェシカ・チャステインやジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャ、ケイト・マーラ、ショーン・ビーン、キウェテル・イジョフォーといった多彩な面子を配しているわりには印象が薄い。これは演出に粘りが足りないからだと思われる。
それにしても、惹句に“70億人が、彼の還りを待っている”と謳っているわりには、主に映し出されるのはNASAと北京の宇宙開発セクションのみ。イギリスの様子がほんの少し紹介されるのを除けば、他の国々は地球上に存在しないかのような扱いだ。裏の事情とやらでそうなったのかもしれないが、随分と独善的な処置であり、観ていて脱力した。