Quantcast
Viewing all articles
Browse latest Browse all 2482

「爆(BAKU)!」

 92年日本ビクター作品。「四月怪談」(88年)や「バタアシ金魚」(89年)などに続く、日本ビクターの新人映像作家シリーズの中の一作。監督はビジネス・ジャンプ映像大賞等に入賞し、これが商用映画デビューとなった吉原健一だ。

 電気メーカーのOLである主人公・圭子は、会社の方針変更で放り出されアルバイトをしている技術者の青年・高田と交際している。かつての上司と元外人部隊の男は、高田が研究している超小型爆弾を使って現金輸送車襲撃をもくろみ、彼を仲間に引き入れる。襲撃は成功したかに見えたが、アクシデントから事件の首謀者と高田は輸送車に閉じ込められてしまい、酸欠死を待つばかり。高田は扉を外から爆破することを思い付き、携帯電話で圭子に予備の爆弾とリモコンの入ったケースを持ってくるように頼むのだが、途中検問に合い、同時に事件を知った彼女は、警察の目を逃れようと、なんと爆弾を呑み込んでしまう・・・・・。

Image may be NSFW.
Clik here to view.


 冒頭の主人公の勤めるオフィスおよび高田が働く工場の描写の稚拙さから、これはとんでもない凡作になると予感したが、事件が起こり、ヒロインが行動に移るあたりから俄然テンポが出てくる。呑み込んだまま出てこない超小型爆弾、故障して爆破のカウントダウンを始めるリモコン、酸素がなくなっていく輸送車の金庫、追いつめる警察、新人監督とは思えないサスペンスの盛り上げ方に目を見張る。ジェツト・コースター的な展開でラストまで観客をグイグイ引き込んでいくこの手腕はたいしたものだ。

 ヒロイン・圭子に扮するのは西村知美だが、意外な熱演を見せる。高速で走る車の窓から身を乗り出して、屋根にくっついたリモコンを取ろうとする危険なシーンも吹替えなし。決して小さくはない爆弾を嘔吐感と戦いながら無理矢理ノドに押し込むくだりや、どしゃ振りの雨の中、高田に連絡をとるため公衆電話で使う小銭欲しさに自動販売機を叩き壊す場面、マンホールの中に落ちたリモコンを探そうと、下水道の中をのたうち回るシーンなど、サディストじゃなかろうかと思う監督のリクエストにも見事に応えている。

 高田を演じる松尾貴史が全然インテリに見えなかったり、輸送車襲撃のシーンがチャチだったり、警察の追求が甘かったりと、いろいろと欠点もあるのだが、当時の日本映画の中では観て損はない佳作だったと思う。なお監督の吉原は、本作の後いくつか作品を手掛けたようだが、いつの間にか消えてしまった。残念なことである。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 2482

Trending Articles