(英題:Veteran )映画の出来よりも、この作品が韓国で歴代3位の大ヒットを記録したという、その背景の方が興味深い。映画の質と興行収入の多寡が一致するとは限らないことは周知の事実であり、ヒットするには何らかの“イベント性”が必要になってくるが、本作ほどそれが明確に示されている例も珍しいと思う。
ソウル地方警察庁の広域捜査隊に籍を置くソ・ドチョル刑事は、お調子者だが腕は立ち、個性的な仲間と共に難事件の解決に当たっている。ある日ドチョルは、彼の友人のトラック運転手が、リストラ処分に抗議するためシンジン物産を訪れた直後、自殺を図って意識不明の重体に陥ったことを知る。単純な自殺未遂として片付けられたこの一件に不審を抱いた彼は、真相の究明に乗り出す。どうやら裏で糸を引いているのは、巨大財閥シンジン・グループの御曹司、チョ・テオらしい。マスコミや利害関係者を総動員して卑劣な揉み消し工作を仕掛けてくるテオに対し、ドチョルは徒手空拳で立ち向かう。
この映画が当たった原因は、ズバリ言って財界人を徹底した悪者に仕立て上げているからだろう。韓国は90年代に財政危機に直面し、97年にはIMFの介入を受けている。それからは新自由主義が持て囃され、国民の間では格差は開く一方だ。加えて大韓航空ナッツリターン事件やロッテ内部の覇権争いなど、近年は財界の不祥事が頻発している。大財閥に対する不信感が高まってきたタイミングで公開されたこの映画が、注目を浴びないわけが無い。
しかも、誰が観ても分かりやすい勧善懲悪の構図を提示している。もちろんドチョル達は品行方正な警官ではないが、それが逆にリアリティを生み、訴求力を高めている。監督のリュ・スンワンは、以前の「ベルリンファイル」(2013年)とは打って変わった大味な仕事ぶり。前半からフザけた場面が目立ち、中盤からは持ち直すものの、荒削りで御都合主義的なテイストが散見される。しかしながら、ヘンに緻密な構成を採用すると、大方の観客は“引いて”しまうことも考えられ、これはこれで良かったのかもしれない。
それでもアクション場面は盛り上がり、終盤のカーチェイスから肉弾戦に突入するあたりのタイミングも見事だ。主演のファン・ジョンミンは妙演だが、それよりも敵役のユ・アインの不貞不貞しさが印象に残る。やはり悪者の存在感が大きいと活劇映画は盛り上がる。
ラスト近くでドチョルとテオの格闘を遠巻きで見守る一般市民に、観客は感情移入していると思われる。危なくて助太刀には入れないが、それでも手持ちの携帯電話等でこの有様を記録することによって、社会権力に対して無言の抵抗を試みているようだ。実際に韓国の国民がこのような行動を取るのかどうかは分からないが、作劇としては面白い処理だと思った。