(原題:The Rewrite )中年男女を主人公にした、気の利いたラブコメディだ。御膳立てや筋書きは申し分なく、キャストも万全。しかも手練れの映画ファンの琴線にも触れるモチーフが満載で、最後まで飽きずに楽しむことが出来る。
その昔アカデミー賞を取ったこともある脚本家のキースは、近年スランプに陥っていて仕事が来ない。ついには光熱費も払えない状況に追い込まれ、知り合いのプロデューサーが紹介してくれた大学講師の仕事を受けざるを得なくなる。勤務地はニューヨークの近くのビンガムトンという田舎町にある公立大学で、そこでシナリオ作成の講義を担当することになるが、もとよりチャラくていい加減な性格のキースは仕事に身が入らない。引っ越し早々、脚本コース志望の女の子を引っかけたのをはじめ、クラスの受講者も可愛い女子ばかりを選び、あとは申し訳程度に御しやすそうな男子2人を入れるという、チャランポランな態度に終始。果ては歓迎パーティでセクハラ発言を連発し、お局教授に目の敵にされてしまう。
そんな中、シングルマザーの大学生ホリーがクラス参加を強く求めてくるので、キースは仕方なく彼女の受講を許可する。ところが意外にもホリーは出来た女性で、何かとキースを手助けし、町の案内もしてくれる。2人の小学生の娘を抱えて大学の購買部で仕事をしながら授業を受ける健気な彼女に、キースは次第に心が傾いてくる。そしてそれは彼の生活態度にも良い影響を与えるようになってくるのだった。
言動に問題がある者が、理想的な相手にめぐり遭って、本来の善良な部分を出してくるというパターンは約束通りだが、マーク・ローレンスの演出(兼脚本)は無理筋なところが見当たらず、実にスムーズ。センセーショナルに走りがちな場面は無く、適度なユーモアを交えて、テンポ良く見せきっている。
面白かったのは、講義の中で触れられる脚本の練り上げ方だ。キースがかつて高評価されたシナリオは最初から構えて書いたものではなく、生活の中で自身の体験に基づき、必然性に突き動かされて仕上げたものである。小手先のテクニックだけでは、決して万人を納得させる映画の筋書きなんか作れるはずもない。
ディズニーとタランティーノ、黒澤やベルイマンを同一レベルで扱えるはずもないが、いずれも強い純粋な動機付けでシナリオが書かれていることに関しては一緒だ。そんなことが授業の中で扱われ、またそれを教えることによってキースも初心を取り戻す過程が、分かりやすく示されている。
キースに扮するヒュー・グラントは、軽薄な二枚目だが根は純情という彼の持ち味がうまく活かされた妙演を見せている。ホリーを演じるのがマリサ・トメイというのもポイントが高い。彼女の清濁併せ呑む鷹揚さがドラマに奥行きを与えている。また学科長のJ・K・シモンズが抜群のコメディ・リリーフだ。日照時間が短くドンヨリとした雰囲気のあったビンガムトンの町が、久々の晴天で輝かしい美しさを見せるラストと共に、気分良く劇場を後に出来る佳編だと言えよう。