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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「パシフィック・ハイツ」

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 (原題:PACIFIC HEIGHTS )90年作品。ジョン・シュレシンジャーといえば出身国イギリスでいくつかの秀作を撮った後、渡米してアメリカン・ニュー・シネマの一翼を担った監督である。しかし80年代以降はどうもパッとせず、そのままキャリアを終えてしまった。本作も要領を得ない出来で、才能の枯渇が感じられる。月日の流れというのは残酷なものだ。

 結婚間近のドレイクとパティのカップルは、サンフランシスコの高級住宅街パシフィック・ハイツに豪邸を購入する。ところが思いがけず多額の修繕費が必要であること分かり、部屋を間貸しすることにする。入居者は二組で、一部屋には日本人のワタナベ夫妻、そしてもう一部屋を借りたのが、ヘイズなる独身男だった。

 ヘイズは一見紳士風だが、入居翌日から奇行が目立ち始め、やがて見知らぬ若造を勝手に住まわせ、挙げ句に家賃も払わない。怒ったドレイクは弁護士を雇って訴訟に踏み切るが、抜け目の無いヘイズを裁判で負かすことが出来なかった。逆に家から追い出されてしまうドレイクとパティだが、やがて意外な事実を知ることになる。

 ハッキリ言って、凡庸なサスペンス編だ。ヘイズに扮するマイケル・キートンは、これが“地”ではないかと思うほど気色の悪い好演であるが、B級ホラーの敵役としては適任でも(作者が狙ったらしい)重厚なサスペンス劇のキャラクターには似つかわしくない。そもそも、コイツの屈折した内面がまるで描かれていないのだ。その描写の底の浅さは主人公の二人にも言えることで、演じるマシュー・モディンとメラニー・グリフィスも、まるで生彩が無い。

 シュレシンジャーとしては、日常生活の隣にある恐怖を扱うことでアメリカ社会の病理までも抉ろうとしたのだろうが、全編これ表面的な展開に終始している。結末に至る過程も、まったく工夫の跡が見られない。いっそのことサスペンス編にせず、マコ扮する日本人夫婦らとの触れ合いをじっくりと描いた人間ドラマにした方が、よっぽど見応えのあるドラマに仕上がったと思われる。

 撮影監督にアミール・モクリ、音楽にハンス・ジマーという手練れの人材を起用していながら、まったく印象に残らない仕事に終始しているのも脱力する。

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