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Channel: 元・副会長のCinema Days
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「グローリー 明日への行進」

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 (原題:Selma )重い題材を扱っているはずだが、観た印象は薄くて軽い。話のまとめ方やキャラクター設定等が練り上げられておらず、散漫で盛り上がりに欠ける。聞けば初めてマーティン・ルーサー・キングJr.牧師自身を描いた映画とのことだが(今までは遺族の承諾を得られなかったらしい)、アカデミー賞候補になったのはそんな背景があるからであり、作品自体が評価されたからではないのではと思ってしまった。

 1964年にキング牧師がノーベル平和賞を受賞し、盛り上がっているかのように見えたアメリカ公民権運動だが、相変わらず人種差別主義者による卑劣な妨害が頻出していた。65年、アラバマ州セルマではキング牧師の主導のもと、黒人の有権者登録の妨害に抗議して約600人が立ち上がり、州都モンゴメリーに向けてデモ行進を開始。それに対して白人知事率いる警官隊は力によってデモを鎮圧し、多数のケガ人が発生する。

 このいわゆる“血の日曜日事件”の映像が全米に流れると大きな反響を呼び、その2週間後に再び行われたデモの参加者は2万5千人にまで膨れ上がった。やがて世論は動き、大統領も関与せざるを得ない事態になる。

 映画の敗因は、キング牧師の陣営が詳しく描き込まれていないことだ。確かに多くの者が彼を手助けしている。だが、具体的に誰がどういう役割を担っていて、どれほどの仕事を成し遂げたのか、よく分からない。彼の妻も登場するが、いかにして内助の功を発揮したのか示されていない。いくら実録物とはいえ、愚直に事実通り頭数を揃える必要はないと思う。キャラの立った人物を2,3人に絞って配備して思う存分動かした方が盛り上がったはずだ。また、何の伏線も無くマスコミが味方に付くあたりも御都合主義的に見える。

 さらに、主演のデイヴィッド・オイェロウォをはじめ、キング牧師の側の演じ手が皆どうも小粒に見える。これでは存在感において悪辣なアラバマ州知事を演じるティム・ロスや、海千山千ぶりを見せるジョンソン大統領役のトム・ウィルキンソンなどに敵うはずもない。ラストの主人公の演説は聴き応えがあるが、これはこの映画の手柄ではなくキング牧師本人が凄いからに他ならない。

 本作がメジャーでの初登板になる女流のエイヴァ・デュヴァーネイ監督の演出は冗長で、メリハリもリズム感も無い展開は、始まって20分もしないうちに眠気が襲ってくる。わずかに印象に残ったのはジョン・レジェンドとコモンによるエンディング・テーマ曲のみだ。それから、ブラッド・ピットが主宰するプランBエンターテインメントが一枚噛んでいるのも気になる。どうしても同じく彼がプロデュースし、同様に黒人差別を扱った凡作「それでも夜は明ける」(2013年)を思い出してしまうのだ(-_-;)。

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